事例 109配偶者として自宅を相続したい

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Aさん

夫が亡くなりました。二人で住んでいた自宅を相続したいですが、夫の連れ子と揉めずに遺産分割協議ができるか不安です。

配偶者居住権をご存知ですか?

「配偶者が自宅に住み続けることはできますか?」
Xさんが亡くなったとして、妻であるAさんがご相談に見えました。
Aさんは、ご主人のXさんと二人暮らしです。また、お二人の間にお子さんはいらっしゃいません。
しかし、ご主人は再婚でした。死別した前妻の連れ子であるBさんを養女にしています。
そのため、相続人はAさんと養女のBさんとなります。AさんがXさんと結婚した時には、Bさんはすでに独立していました。現在もやり取りはありますが、同居をしたことはないとのこと。
「もし遺産分割協議をするとなったら、ちゃんとできるか不安で…」
と、ご不安な様子のAさん。
自筆で書かれたXさんの遺言書がありますが、開封してみないことにはなんともわからない状況です。

自筆証書遺言は検認を。

まずは、家庭裁判所で遺言の検認をすませることになりました。
AさんとBさんが内容を確認すると、「預金を2人で半分ずつ分けるように」という記載のみでした。
ところが、実際には、遺言で指定してある預金以外にも財産があったのです。
ご自宅、他の金融機関の預金、個人年金の受給の権利、過去に購入していた上場株式、支払済の終身保険の保険金などなどです。
預金以外の財産が判明したとなれば、Bさんとの遺産分割協議が必要となります。
「預金の額が少ないから、自宅を売却する必要があるかも…」
ますます不安そうになるAさんでした。

これらの財産をもとに、おふたりは納得がいくまで話し合いをしたそうです。
Bさんとの遺産分割協議が上手くいかなければ、自宅を売却して資金を確保が必要です。
そうなれば、Aさんは住み慣れた自宅にとどまることが出来なくなってしまいます。

実際は、揉めることなく、自宅はAさんだけが相続し、その他の資産を遺産分割することでまとまりました。
「自宅は売却したくないと思っていたので良かった」
と、Aさんは安堵されていました。
今回のようなケースで注目されているのが、民法改正により新設された「配偶者居住権」の制度です。
残された配偶者が、住み慣れた自宅を売却せずに済む選択肢の一つとして役立つ制度になりそうです。

相続人は配偶者(現在の妻)と、前妻の連れ子(養子縁組済み)の2名

◆参考◆

注意したい自宅不動産の相続

●相続における自宅不動産

今回のケースで、Xさんは前もって自筆証書遺言を残していました。
しかし、内容は預金のことだけで、自宅不動産のことは書かれていませんでした。
おそらく、今住んでいるAさんが自宅を相続することは当然としてお考えだったのでしょう。
もし、「不動産をAさんに」という旨があれば、Aさんは戸惑わずに自宅を相続することができました。
そして、Bさんは遺留分侵害額をAさんに請求することで、Aさんはこれまでどおり、住み慣れた家で安心して暮らすことができたのです。
遺言を書く際には、すべての財産を網羅しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができるのです。

●配偶者居住権という選択肢

配偶者の死亡後、残された多くの方が、住み慣れた自宅で居住を続けることを希望します。
特に高齢者であれば、なおさら、新たな環境で生活を立ちあげることは容易ではありません。
こうした配偶者の居住する権利を保護すべく、民法改正により「配偶者居住権」という権利が創設されました。

この改正により、以下のことができるようになりました。

 ・配偶者は遺産分割で配偶者居住権を取得することにより、
  終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるものとする
 (※配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に限る)
 ・被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできるものとする

これは、法定相続分で遺産分割をする際に、
自宅不動産以外の財産(預貯金等)が少ない場合などの選択肢となり得ます。

配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金等を十分に相続できないことになる為、
住む場所は確保できても、今後の生活は不安定になるおそれがあります。
そこで、配偶者が自宅の所有権を取得せずに、この配偶者居住権を取得すれば、
終身又は一定期間住み続けることができます。
また、配偶者居住権は所有権よりも低く評価されることになるため、多くの預貯金を相続できることになります。
(この配偶者居住権は2020年4月1日より施行されています。)

参考サイト:法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」

東京都 Kさん

僅かな相続分でありましたが、ご親切に手続きをしていただきました。
安心してお任せすることができました。ありがとうございました。
大変お世話になりました。
益々のご発展をお祈りいたします。

東京都 Mさん

相続は初めてで戸惑うことが多々ありました。しかし、ていねいにご対応いただき、大変に助かりました。
また、派生した事柄にも親切にサポートしていただき、大変に感謝しております。
なお、返信が遅くなりましたこと、ご容赦ください。

事例 108特別の寄与の制度で兄嫁に相続財産を渡したい。

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Bさん

兄亡きあと、義父である父を献身的に介護してくれた兄の奥さんに、相続財産を受け取ってもらう方法はありますか?

特別の寄与分制度を検討してみましょう。

Bさんのお兄さんYさんは、奥さんのAさんと2人家族でした。
ご兄弟のお母さんは既に亡くなられ、お父さんのXさんはご実家で一人住まい。
ところが、ある日、転倒での骨折から介護が必要に…。そこで、XさんAさん夫婦が呼び寄せられ、同居が始まったのです。
フルタイムの仕事をしながら、愚痴も言わずに、家事に介護に忙しい毎日を過ごしていたAさん。
そんな矢先、ご主人のYさんが突然の交通事故で亡くなってしまいました。
当時のBさんは、忙しさにかまけ、実家に全く顔を出さず、父親と同居するつもりもなかったと言います。
そのため、Aさんは、仕事をしながら義父の介護を続けることになってしまいました。

兄嫁の寄与に対しての想い

Aさんは、仕事をしながら家計を支え、義父の介護もこれまで通りこなしました。
実の娘ではないのに、亡き息子のお嫁さんとして頑張ってくれるAさんに、Xさんは大変感謝していました。
そして、次第にBさんにもその気持ちは大きくなっていきました。
しかし、このままでは万が一の時、相続人ではないお嫁さん(Aさん)に財産を残すことができないのでは、と考えました。

特別の寄与の制度の創設

これまで、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策はありませんでした。
しかし、それでは、Aさんのように義父の介護に尽くしても、相続財産を取得することができません。
そこで、2019年7月1日に「特別の寄与の制度」が創設されました。
これにより、例え遺言書で贈与の旨の記載が無くても、相続人に対して金銭の請求が可能となったのです。

特別の寄与の制度も検討したうえで、XさんとBさんは話し合いました。
その結果、Xさんの遺産の半分をAさんに残すことを決め、遺言書を作成しました。
もちろん事前にAさんにも伝えました。
それから数か月後Xさんは亡くなりました。
Aさんは遺言どおりに遺産の半分の遺贈を受けることとなりました。
今回のケースでは、事前に唯一の相続人であるBさんを含めて話し合いができ、
準備期間を設けたうえで、遺言書を作成したことでスムーズに手続きができました。
前述の通り、法改正により、相続人ではない人が介護をしていたとき、
相続財産の一部を相続人に請求できる制度が新設されましたが、
確実に相続財産を渡したいときは、Xさんのように生前に遺言書を作成することをお勧めします。

特別の寄与の制度の創設に関する事例

◆参考◆

特別の寄与の制度の創設

●これまでの寄与分制度

相続人が複数の場合、その共同相続人の中で、被相続人の事業に関する労務の提供、
財産上の給付、療養看護その他の方法により、被相続人の財産の減少を防いだり増加させたりした
相続人がいるときは、共同相続人間の公平を図る為、
その者に遺産の中から貢献した額を取得させる「寄与分」という制度があり、
従来の旧民法においては、寄与分を主張することができるのは相続人に限られていました。

●民法改正による特別の寄与分制度

民法改正により、相続人以外の者でも、被相続人の「親族」であれば、
貢献に応じた額を請求することができることになりました。
この場合の「親族」とは六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族をさし、
「内縁の妻」や「同居人」、「親切なお隣さん」などからの請求は認められません。
この「特別の寄与」を主張する者は相続人ではないため、遺産分割協議に参加するのではなく、
相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求することになります。
今回の事案で、Xさんの長男の妻であるAさんは、相続人とはなりませんが、一親等の姻族として親族となります。
そのため、遺言がなかった場合でも、現民法においては「特別の寄与」として、
貢献に応じた額を請求することが可能でした。
また、特別寄与料は、当事者間の協議により決められますが、
協議が調わない場合は家庭裁判所に対して処分を請求することができます。
ちなみに、療養看護に貢献した場合の評価は、一般的には、
第三者が同様の療養看護を行った場合の日当額に療養看護日数を乗じたものに、
一定の裁量割合を乗じて算定されているようです。

参考サイト:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の概要」(外部サイト)
※該当項目は【6相続人以外の者の貢献を考慮するための方策】

東京都 Nさん

この度は、夫の相続の件、相談員のI様に大変お世話になりました。ありがとうございました。
何もわからない私にも、大変親切丁寧にお話しいただきました。すべてお任せで安心することができました。
大変寒さ厳しい中でも、遠方まで足をお運びいただき、感謝しております。
本当に、ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

東京都 Tさん

相続のことは何もわからず、葬儀社さんに紹介していただいたのが相続手続支援センターさんでした。
丁寧な説明と、電話でも状況報告してくださって、安心できる対応でした。
お願いしてよかったと思います。ありがとうございました。

事例 107対策をせず、押し付け合いになった遺産。

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Aさん

実家はたくさんの土地や建物、田畑を持つ旧家です。
父が亡くなり、それらの遺産を三姉妹でどう相続すればいいのやら…。

生前対策を考えておきたい財産はありませんか?

今回は、生前に対策をしなかったために大変な思いをした事例です。
お父様が亡くなったとのことで相続人全員が揃ってご相談にいらっしゃいました。
長女Aさん、二女Bさん、三女Cさんの三姉妹です。

ご実家は代々続く旧家とのことです。三姉妹は皆嫁ぎ、現在は誰も実家を継ぐ人がいないとのことでした。
「旧家にとって『跡取り』はとても重要なんです。」と口々に思いつめたようにおっしゃいます。
三姉妹の結婚話が持ち上がるたびに、そのことが原因で揉めたこともあったようです。
その後、跡取り問題は封印され、3人とも嫁ぎ、年月が流れ
そして、このたび、お父様がお亡くなりになられたとのことでした。

「これから先、実家の広い敷地やお墓を誰が引継ぎ、どう管理すればいいのか…」
聞けば、実家には古い母屋や離れ、何十筆もの田畑も所有しているそうです。三姉妹は途方にくれておられました。しかも、広大な宅地は高額な評価額となり、相続税も納めなければなりません。

「いっそ相続放棄をしてしまいたい。」
との思いも過ります。しかし、親戚の叔父叔母の手前、そんな無責任な事が許されるはずがないとのこと。すると、事態はそれぞれの配偶者を巻き込んでの分割協議へ発展。
「遺産の取り合い」ではなく「押し付け合い」となったのです。
仲の良かった三姉妹の間には、話し合いを重ねるごとに不穏な空気が漂うように…。
ついには「長女VS二女&三女」という関係になってしまいました。
最終的には、長女のAさんが全てを相続する形で協議が成立。親戚の叔父叔母からの叱責や、相続税の申告期限も迫る中での苦渋の決断でした。

◆参考◆

押し付け合いになる前に…

その後、Aさんから聞いたお話です。
「相続税は相続した預金で何とか支払うことができました。しかし、これから先はどうしたらいいか…。」
このままでは、土地や建物の固定資産税や土地の管理費用を払い続けることになります。
「とても預金では賄えません。将来的には土地を切り売りするしかありません。そうなればきっと妹達や親戚は私を責めるでしょう。幼い頃から三姉妹平等に育ってきました。でも、お墓も私が守り続けなければならない。まさか、こんなときだけ長女の責任を負わされるなんて…。」
と、Aさんは悲しそうにおっしゃっていました。
ときに、先祖代々から受け継いできた「家」が子孫を苦しめる事になるのです。
現代では価値観の多様化から、「誰も相続したくない」という相続問題も増えそうです。
押し付け合いになる前に、生前対策を考えておきたいですね。

 (例)・誰も住んでいない実家
    ・地方にある山林、原野の処遇
    ・祭祀財産の承継  など

●不要不動産の対策

今回の事案のように、受け継いできた実家不動産だけでなく、将来の開発を期待して買った山林や原野 などの不要不動産についても、遺産分割協議の際に、相続を押し付け合うということがあります。相続により、行ったこともない空地の固定資産税を負担することになりかねないからです。そのような不動産をお持ちの場合は、相続による混乱が生じるのを防ぐため、前もって売却先を探しておくなどの生前対策が望まれます。

●祭祀財産による対策

お墓や仏壇や位牌等を「祭祀財産」といいます。相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人に承継されるのが原則ですが、「祭祀財産」は第一に被相続人の指定に従って、次に慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に承継されることと民法で定められています。

 実際の遺産分割協議では、祭祀財産を承継する人が「お墓を守っていくから」という理由で実家を相続したり、財産を多く相続したりすることがあるようです。これらの祭祀財産は「財産」というより「先祖を敬う気持ち」によるところもあり、受け継ぐ人にとって大きな負担となる事もあります。今回の事案のように押し付けあう「争続」が発生しないよう、生前の話し合いが重要です。

事例 105相続人以外へ財産を贈与できますか?

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Aさん

叔父の相続財産を、相続人以外の方に受け取ってほしいのです。どうしたらいいでしょうか?

民法改正により、相続人以外の親族へ遺産分配ができるようになりました。

「相続人以外の方に、相続財産を受け取ってもらえますか?」

Aさんが叔父の相続手続きの相談でいらっしゃいました。
叔父のXさんは生涯独身で5人兄弟の末っ子でした。また、既にご兄弟も全員お亡くなりになっているそうです。
そのため、相続人はAさんを含む甥姪7人とのことでした。
そして、Aさんが代表として動くことになったため、相談に見えたということでした。その理由は、一番お若いことと法定相続分が最も多いことだそうです。

お話をするうちに、Aさんが冒頭の質問をされました。
なんでも、相続人以外に、ぜひ財産を受け取ってほしい方がいるそうで…。

①Xさんのごきょうだい

先述の通り、叔父Xさんのごきょうだいは既に他界していますが、少々複雑だったようです。
まず、いわゆる異母兄弟が3人(長女Pさん、長男Qさん、次男Yさん)。そして、両親が同じZさん(Aさんのお母様)でした。ただ、母親が違うとはいえ、長女Pさんは弟Xさんを可愛がっていたそうです。
それは、Pさんの嫁ぎ先の北海道にXさんも居を移したことからも明らかでした。そして、Pさん亡き後も、その長男Rさん家族がXさんの面倒をみていたというのです。

②真の貢献者Bさん

Aさんがお葬式のために北海道に行くと、Rさんは10年前既に他界していました。
さらに、奥さんのBさんはご主人が亡き後、義理の母であるPさんを看取ったそうです。
その後、夫の叔父にあたる独居老人であったXさんのお世話を、子供たちと一緒にしてくれていたそうです。
それほど尽くしてくれたにもかかわらず、相続財産を受け取ることはできません。BさんもRさんのお子様もXさんの相続人とはならないからです。それは、RさんがXさんより先に死亡したためです。Aさんはそのときに初めて、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪一代限り、と知りました。

「なんとしてもBさんご家族に相続財産を受け取ってほしい。真の貢献者は彼女です。財産を受け取る権利があります!」

そう思ったAさんは、東奔西走の末、当センターに辿り着いたということでした。

まず、Aさんは税理士に、Bさんに贈与税の負担のかからない方法を確認しました。そして、Xさんの相続人(Aさんの従兄弟たち)一人一人に掛け合いました。最後に、Cさんに一役買っていただくことで分割協議がまとまりました。相続人がそれぞれ相続分から出し合い、Cさんの相続分に500万円上乗せするという内容です。
その後、Cさんから1年に100万円ずつ、計5年間、Bさんに贈与してもらうことになりました。
亡Rさんの妹Cさんは、北海道にお住まいでBさんと親交がある方だったのです。

相続人以外の貢献者は法定相続人の配偶者とその子供達

◆参考◆

●相続人以外の貢献者

「なによりその努力を皆さんが認めてくださったことが嬉しい」
何の見返りも期待せず介護をしていたBさん親子も、大変喜ばれました。
故人のお世話をしてくれていた人にこそ遺産を渡したいというAさんの優しい熱意。それが、他の相続人の心を動かした事案でした。

●「特別寄与料」の請求

民法改正により、相続人の親族(相続人以外の者)の貢献を考慮するための方策の条文が追加されました。
(2019年7月1日施行)
これまで、多大な貢献をした場合でも、相続人以外の者は遺産の分配を受けられませんでした。
それでは実質的公平に反するため、今般の民法相続法の改正がなされました。
相続人以外の者であっても、一定の貢献をした場合には相続人に対して「特別寄与料」を請求できることとなりました。(ただし相続人の親族に限る)

参考サイト:法務省(相続法の改正)

●今回のケース

今回は贈与の形で、本来は遺産を受け取ることのできないBさんへの優しさが実ったケースでした。
今後は、この法律改正が施行されたため、次のような場合の請求が可能となります。

 例)長男の死亡後、その妻が義父の介護をしており、その義父が亡くなった場合。

こうした場合に、長男の兄弟姉妹に対して、妻が直接金銭の請求をすることができるようになりました。
(相続人以外の被相続人の親族が無償で療養介護等を行っていた場合に限る)

事例 104遺産分割協議が出来ず、生活費が心配です。

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Bさん

兄弟と連絡が取れず、父の相続で遺産分割協議ができないため、高齢の母が生活費に困っています・・・。

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。

Xさんが急死されたということで、奥様Aさんと長男Bさんがご相談にみえました。
二男のCさんが三人目の相続人です。しかし、ご兄弟間の折り合いが悪く、かれこれ20年以上音信不通状態。
いつしか、居所も分からなくなり、葬儀の連絡すらできていないとのことでした。
また、ご夫婦間では全ての財産をXさんが管理していました。そして、Aさんは毎月の生活費をXさんから受け取るようにしていました。
そのため、当面の生活費だけでも…と、取り急ぎ預金をおろしに銀行に行ったAさん。
ところが、「相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要」と言われてしまったそうです。
Aさんは途方に暮れていらっしゃいました。
「相続人全員のと言われても、二男の行方も分からないのに…」

①相続人の居所を調査

預貯金は相続財産として遺産分割の対象となります。
そのため、預金を下ろすには遺産分割協議が必要不可欠です。
そして、それは銀行の案内通り、相続人全員で行う必要があります。
まず、戸籍や附票を取得して調査したCさんの住所宛に連絡をしていただきました。
ところが、Bさんとの長年の確執からか「協力したくない」の一点張り。母親であるAさんからの連絡でも同様とのことでした。
Cさんが応じてくれない限り、遺産分割協議を進めることができず、預金を下ろすことができません。
それはつまり、Aさんの当面の生活費が確保できないということでもありました。

②相続財産以外での生活費確保

しかも、しばらくは葬儀代や未払いの病院代などの臨時出費がかさむ時期です。
そんな中、実は、Cさんの居所を調査と同時にしていたことがありました。相続財産以外の資金についての請求です。
生命保険は相続財産に当たらないので、遺産分割協議をせずともAさんが受け取ることができます。
幸い、Xさんは生命保険をかけていたため、まず保険の請求を着手していただきました。
また、同様の遺族年金も早急に請求することにしました。
一方で、相変わらずCさんの態度は頑なです。
そうこうしている内、死亡保険金が支払われ、その後、無事に遺族年金も受け取ったAさん。
ようやくBさんも、お母様の生活費の心配を取り除くことができました。

その後、金銭的に安心のできたAさんとBさんは、根気よくCさんのもとに足を運びました。
そして、ずっとCさんの心配をしていたXさんの思いを何度も伝えました。これからは、家族としてもう一度やり直したいと話しをし続けました。
その甲斐あって、最終的にCさんは遺産分割協議への協力に応じてくれました。
無事に相続手続が完了し、初盆には皆さんでお参りできたということでした。

遺産分割協議に際し、長年の確執から和解し合った兄弟と、ほっとする母親。

◆参考◆

●遺産分割協議に関わる民法(相続法)の改正

遺産分割協議終了前の、共同相続人の一部からなされる預貯金の払戻請求については下記の通りとされていました。
「預貯金も遺産分割の対象とされ、遺産分割協議が終了しなければ一部の相続人が預貯金の払戻を受けることができない」(2016年12月19日の最高裁判所大法廷決定)

しかし、それでは今回のケースのように当面の生活費など有事における相続人の資金不足が深刻化してしまいます。
こうした不都合を回避すべく、早急な法整備が待たれていたのです。
そこで、ついに今般の民法(相続法)改正で預貯金の払戻制度が創設されました。
民法第909条の2が盛り込まれ、各相続人は遺産分割前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。(2019年7月1日施行)

●その他の改正

このほかにも家事事件手続法を改正して、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断により預貯金の仮払いを得る方策も設けられました。
家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しが受けられる金額には上記のとおり限度額が定められていることから、あくまでも当面の資金需要に対応するためということで、大口の資金需要がある場合については、家庭裁判所の判断を仰ぐということになると考えられます。

参考サイト:全国銀行協会

事例 99自筆証書遺言を書いてもらいました

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Aさん

夫の自筆証書遺言があるのですが、震える手でなんとか書いた、ようやく読めるような状態のものです。相続手続に使うことはできますか?

自筆証書遺言は検認手続きが必須

Aさんから、ご主人のXさんが亡くなったと、ご相談をいただきました。
Aさんご夫婦には、お子様はいらっしゃいません。被相続人に子や孫がいない場合、相続人は直系尊属(父や母)となりますが、父や母、祖父母が既に亡くなっていらっしゃれば、相続人は兄弟姉妹になります。
さらに、兄弟姉妹で既に亡くなっている方があれば、その子(甥姪)が相続人となります。Xさんのご兄弟姉妹はほとんど亡くなっていらっしゃるので、相続人は甥姪含めて16人です。すなわち、相続手続に当たっては、この全員で遺産分割をしなければなりません。Xさんの相続財産はご自宅不動産と預金です。

「これがあるのですが…」Aさんはファイルから紙を何枚か出されました。

自筆証書遺言の注意点①

見ると、震えた字で「ゆいごんしょ」と書いてあります。
Xさんは認知症等を患ってはいませんでした。ところが、手が震えて、字がまともに書けない状態でした。そこで、練習を重ねて書き、何とか読むことができる遺言書が何枚かありました。
X さんの遺言書は「わたしのざいさんをAさんにゆずる」という内容のものでした。
ただ、そのうちのほどんどが形式不備でありました。自筆証書遺言は、日付や署名、押印が必須となるのです。そのうえ、自筆で書かれた遺言書は検認手続きを経ないと相続手続に使うことができません。しかも、検認には相続人確定の為の戸籍を取得する必要があるのです。

自筆証書遺言の注意点②

幸い、日付も署名も押印もすべて揃っているものが1枚ありました。
早速、相続人全員の戸籍を取得して、家庭裁判所での検認手続きに入りました。今回は相続人が多く、戸籍取得に時間はかかりましたが、無事に検認に入ることができました。
しかし、検認が終わり、いざ手続きに入ろうとする段階になって、もう一つ必要な手続きがあると判明。
司法書士によると、「ゆずる」という文言だと「遺贈」と解されるとのこと。そのため、登記を行うには相続人全員の関与が必要だというのです。この場合、遺言執行者の選任を裁判所に申し立て、選任されれば、執行者により手続ができます。

そこで、最終的にはAさんを遺言執行者として申立を行いました。ここでも時間を費やすこととなり、結局、相続手続完了までに約半年かかってしまいました。
それでも、Aさんは次の様に仰ってくださいました。

「時間はかかったものの、遺言書がなかったらもっと大変だったでしょう。手続きすらできなかったかもしれない。わたしは今後も家に住み続けられるから、何とか書いてもらってよかった。」

◆参考◆

平成31年1月13日自筆証書遺言の方式が緩和されました!!

●緩和前の制度では…

これまで、自筆証書遺言を作成する場合には、全文を自書する必要がありました。遺言書部分はもちろんのこと、添付する財産目録についても、パソコンでの作成や、通帳のコピーの添付は認められていませんでした。ただでさえ全文の自書は大変ですし、特に、お年寄りや財産の多い方にとっては、相当な負担となっていました。


●緩和後の制度のメリット

今回の見直しで、以下の様に方式が緩和された為、作成時の負担が軽減されることとなりました。
「自筆証書遺言に、パソコンで作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようにする」
さらに、財産目録には署名押印をしなければならないので、自筆でない添付物でも偽造も防止できるようになります。

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