Bさん
兄弟と連絡が取れず、父の相続で遺産分割協議ができないため、高齢の母が生活費に困っています・・・。
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。
Xさんが急死されたということで、奥様Aさんと長男Bさんがご相談にみえました。
二男のCさんが三人目の相続人です。しかし、ご兄弟間の折り合いが悪く、かれこれ20年以上音信不通状態。
いつしか、居所も分からなくなり、葬儀の連絡すらできていないとのことでした。
また、ご夫婦間では全ての財産をXさんが管理していました。そして、Aさんは毎月の生活費をXさんから受け取るようにしていました。
そのため、当面の生活費だけでも…と、取り急ぎ預金をおろしに銀行に行ったAさん。
ところが、「相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要」と言われてしまったそうです。
Aさんは途方に暮れていらっしゃいました。
「相続人全員のと言われても、二男の行方も分からないのに…」
①相続人の居所を調査
預貯金は相続財産として遺産分割の対象となります。
そのため、預金を下ろすには遺産分割協議が必要不可欠です。
そして、それは銀行の案内通り、相続人全員で行う必要があります。
まず、戸籍や附票を取得して調査したCさんの住所宛に連絡をしていただきました。
ところが、Bさんとの長年の確執からか「協力したくない」の一点張り。母親であるAさんからの連絡でも同様とのことでした。
Cさんが応じてくれない限り、遺産分割協議を進めることができず、預金を下ろすことができません。
それはつまり、Aさんの当面の生活費が確保できないということでもありました。
②相続財産以外での生活費確保
しかも、しばらくは葬儀代や未払いの病院代などの臨時出費がかさむ時期です。
そんな中、実は、Cさんの居所を調査と同時にしていたことがありました。相続財産以外の資金についての請求です。
生命保険は相続財産に当たらないので、遺産分割協議をせずともAさんが受け取ることができます。
幸い、Xさんは生命保険をかけていたため、まず保険の請求を着手していただきました。
また、同様の遺族年金も早急に請求することにしました。
一方で、相変わらずCさんの態度は頑なです。
そうこうしている内、死亡保険金が支払われ、その後、無事に遺族年金も受け取ったAさん。
ようやくBさんも、お母様の生活費の心配を取り除くことができました。
その後、金銭的に安心のできたAさんとBさんは、根気よくCさんのもとに足を運びました。
そして、ずっとCさんの心配をしていたXさんの思いを何度も伝えました。これからは、家族としてもう一度やり直したいと話しをし続けました。
その甲斐あって、最終的にCさんは遺産分割協議への協力に応じてくれました。
無事に相続手続が完了し、初盆には皆さんでお参りできたということでした。
◆参考◆
●遺産分割協議に関わる民法(相続法)の改正
遺産分割協議終了前の、共同相続人の一部からなされる預貯金の払戻請求については下記の通りとされていました。
「預貯金も遺産分割の対象とされ、遺産分割協議が終了しなければ一部の相続人が預貯金の払戻を受けることができない」(2016年12月19日の最高裁判所大法廷決定)
しかし、それでは今回のケースのように当面の生活費など有事における相続人の資金不足が深刻化してしまいます。
こうした不都合を回避すべく、早急な法整備が待たれていたのです。
そこで、ついに今般の民法(相続法)改正で預貯金の払戻制度が創設されました。
民法第909条の2が盛り込まれ、各相続人は遺産分割前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。(2019年7月1日施行)
●その他の改正
このほかにも家事事件手続法を改正して、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断により預貯金の仮払いを得る方策も設けられました。
家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しが受けられる金額には上記のとおり限度額が定められていることから、あくまでも当面の資金需要に対応するためということで、大口の資金需要がある場合については、家庭裁判所の判断を仰ぐということになると考えられます。