Aさん
夫が亡くなりました。二人で住んでいた自宅を相続したいですが、夫の連れ子と揉めずに遺産分割協議ができるか不安です。
配偶者居住権をご存知ですか?
「配偶者が自宅に住み続けることはできますか?」
Xさんが亡くなったとして、妻であるAさんがご相談に見えました。
Aさんは、ご主人のXさんと二人暮らしです。また、お二人の間にお子さんはいらっしゃいません。
しかし、ご主人は再婚でした。死別した前妻の連れ子であるBさんを養女にしています。
そのため、相続人はAさんと養女のBさんとなります。AさんがXさんと結婚した時には、Bさんはすでに独立していました。現在もやり取りはありますが、同居をしたことはないとのこと。
「もし遺産分割協議をするとなったら、ちゃんとできるか不安で…」
と、ご不安な様子のAさん。
自筆で書かれたXさんの遺言書がありますが、開封してみないことにはなんともわからない状況です。
自筆証書遺言は検認を。
まずは、家庭裁判所で遺言の検認をすませることになりました。
AさんとBさんが内容を確認すると、「預金を2人で半分ずつ分けるように」という記載のみでした。
ところが、実際には、遺言で指定してある預金以外にも財産があったのです。
ご自宅、他の金融機関の預金、個人年金の受給の権利、過去に購入していた上場株式、支払済の終身保険の保険金などなどです。
預金以外の財産が判明したとなれば、Bさんとの遺産分割協議が必要となります。
「預金の額が少ないから、自宅を売却する必要があるかも…」
ますます不安そうになるAさんでした。
これらの財産をもとに、おふたりは納得がいくまで話し合いをしたそうです。
Bさんとの遺産分割協議が上手くいかなければ、自宅を売却して資金を確保が必要です。
そうなれば、Aさんは住み慣れた自宅にとどまることが出来なくなってしまいます。
実際は、揉めることなく、自宅はAさんだけが相続し、その他の資産を遺産分割することでまとまりました。
「自宅は売却したくないと思っていたので良かった」
と、Aさんは安堵されていました。
今回のようなケースで注目されているのが、民法改正により新設された「配偶者居住権」の制度です。
残された配偶者が、住み慣れた自宅を売却せずに済む選択肢の一つとして役立つ制度になりそうです。
◆参考◆
注意したい自宅不動産の相続
●相続における自宅不動産
今回のケースで、Xさんは前もって自筆証書遺言を残していました。
しかし、内容は預金のことだけで、自宅不動産のことは書かれていませんでした。
おそらく、今住んでいるAさんが自宅を相続することは当然としてお考えだったのでしょう。
もし、「不動産をAさんに」という旨があれば、Aさんは戸惑わずに自宅を相続することができました。
そして、Bさんは遺留分侵害額をAさんに請求することで、Aさんはこれまでどおり、住み慣れた家で安心して暮らすことができたのです。
遺言を書く際には、すべての財産を網羅しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができるのです。
●配偶者居住権という選択肢
配偶者の死亡後、残された多くの方が、住み慣れた自宅で居住を続けることを希望します。
特に高齢者であれば、なおさら、新たな環境で生活を立ちあげることは容易ではありません。
こうした配偶者の居住する権利を保護すべく、民法改正により「配偶者居住権」という権利が創設されました。
この改正により、以下のことができるようになりました。
・配偶者は遺産分割で配偶者居住権を取得することにより、
終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるものとする
(※配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に限る)
・被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできるものとする
これは、法定相続分で遺産分割をする際に、
自宅不動産以外の財産(預貯金等)が少ない場合などの選択肢となり得ます。
配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金等を十分に相続できないことになる為、
住む場所は確保できても、今後の生活は不安定になるおそれがあります。
そこで、配偶者が自宅の所有権を取得せずに、この配偶者居住権を取得すれば、
終身又は一定期間住み続けることができます。
また、配偶者居住権は所有権よりも低く評価されることになるため、多くの預貯金を相続できることになります。
(この配偶者居住権は2020年4月1日より施行されています。)