事例 133長期相続登記等未了土地が見つかってしまったら・・・

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Aさん

まさか、祖父名義のままの土地が残っていたとは…。ご相談してほんとうに良かったです。

お父様のXさんが亡くなられたとのことで、長男のAさんからご相談がありました。
相続人は他に、弟Bさん、お母様(Xさんの配偶者)Yさんの3人。
さらに、家族関係も良好ということで、Aさんが代表でお手続きを申し込まれ、
これで、トラブルなく手続を進められると誰もが思っていました。
長期相続登記等が未了の土地が見つかるまでは…。

その後、土地について事前調査をしていた時のことでした。
なんと、Yさんが相続する予定の自宅不動産の名義の一部が、
昭和23年に亡くなられたお祖父様名義のままになっていることが判明したのです。

通常、故人名義になっている不動産を相続登記する際には、相続人を確定するために、
現時点での相続人全ての戸籍謄本を取得する必要があります。
特に、先々代やそれ以上前の世代の場合、権利関係が複雑になり、
そのため、相続人を確定することは大変な労力が必要となります。

ところが、今回はそういった手間なく手続を進めることができました。
その理由は、対象となっている土地の権利部(甲区)に『長期相続登記等未了土地』の付記がなされていたためです。
これは、平成30年に施行された法律に基づいたもので、法務局の登記官が登記未了である旨等を登記に付し、
法定相続人等に登記手続きを直接促す作業によるものです。

  

つまり、付記登記があるということは、法務局が既に相続人を調査・確定してくれているということ。
ですから、法務局にある「法定相続人情報」を利用すれば、相続を証する戸籍謄本などの提出が不要になる、
とされています。
とはいえ、名義変更を行うには遺産分割協議が必須にはなりますが、
幸い、お祖父様の相続についての相続人は、Aさん達のほか、仲の良いZさん(Xさんの妹)だけでした。
そのため、もめ事も起きず、無事にYさんが相続することができました。

  

長期相続登記未了(祖父名義のまま)の土地と判明して、驚き悩む孫のイラスト

  

◆所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法◆

この法令に基づき、平成30年から全国の法務局において
「所有権の登記名義人の死亡後長期間(30年以上)にわたって相続登記が未了の土地について
亡くなった方の法定相続人を調査し、法定相続人情報を作成し、
土地の所在地を管轄する法務局へ備え置く作業」が進められています。
そして、この作業が完了した土地については、今回のケースのように、
その土地の登記簿に『長期間相続登記未了の旨の付記登記』がされます。
その結果、この調査で判明した法定相続人の内の任意の1名の方に対して、
相続登記の促進を目的として法務局から通知書が送付されます。

さて、昨今、「所有者不明土地」が増加しており、大きな社会問題となっています。
それは、その背景にある、相続が生じても登記が行われない実態などを原因として、
不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない・判明してもその所在が不明で連絡がつかない
といった問題を解決し、指摘されている「所有者不明土地」の増加・管理の放置による環境悪化、
公共事業等の用地買収や土地取引の障害となるなど、国民経済への損失を防ぐことが目的です。

そこで、可及的速やかに求められている「速やかに登記がなされるための仕組」、
つまり、不動産登記制度の見直しや、相続登記の申請義務化に関する法律が
令和3年に成立しました。施行は令和5年以降(相続登記申請義務化は令和6年)となっています。

  

事例 132相続時精算課税制度を正しく理解して、申告漏れを防ぎましょう

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Aさん

母の相続手続を行う際、父から弟が贈与を受けていたかもしれません。父の相続手続の際に、気をつけることはありますか?

AさんBさん姉弟が、お父様の相続手続についてご相談にみえました。
お母様は10年以上前に亡くなっており、相続人は姉妹の二名です。
まず、お二人がお揃いの上でお話を伺うと、相続財産はご自宅不動産と預貯金とのこと。
さらに、お話を進めていくと、かねてよりAさんがご両親と同居していたことから、
ご自宅をAさんが取得されることにBさんは異論ありませんでした。
ただ、不動産の価値に比べると、預貯金が極端に少ないことがわかりました。
そこで、預金はBさんが取得するとしても、Aさんから多少なりとも代償金を支払うかどうか
話合って決めていただくこととなりました。
それとは別に、Bさんは「相続時精算課税制度」について気にしているご様子でした。  

というのも、お母様の相続を手続きされた際、
税理士に相談して、主な預金はAさんが、Bさんは住んでいる自宅の敷地を、それぞれ相続したそうです。
そして、その時の不動産名義が、Bさん曰く、お父様名義だったとのこと。
つまり、当時のお母様の相続とは関係ないのですが、
Bさんはその時、お父様から生前贈与を受けていたことになるのです。

この制度は、父母や祖父母から子や孫へ2,500万円まで贈与税を納めずに贈与でき、
その後、贈与者が亡くなった時に、贈与時の価額と相続財産の価額とを合計して、
一括して相続税として納税するという制度です。
もし、税理士が関与していたとすれば、可能性は十分にありますが、
Bさんは税務申告したかどうか、はっきり覚えていらっしゃいません。

実際、申告書の控え等もなく、さらには、その税理士は既に引退していて詳細はわからないとのことで
相続時精算課税制度が適用されたかを確認することは難しく思われました。
ところが、Bさんのご自宅の地番をお聞きし、登記簿を確認すると、
お母様が亡くなった年に贈与を受けていることがわかりました。
さらに、所轄税務署に照会をかけると、やはり、
相続時精算課税制度を利用していたことが判明しました。
このことから、今回の相続税申告の際に、相続財産に生前贈与の財産も加算して相続税を計算することに。

そして、Bさんが、お父様から先に財産を受けていたということをご姉弟で確認と認識したうえで、
話し合いの結果、Aさんからの代償金はなしで遺産分割が合意されました。
今回のケースは、生前贈与(相続時精算課税)を確認できたことで遺産分割協議がスムーズに運び、
スムーズな分割協議や、相続税申告漏れを防げたことが幸いとなった事例でした。

  

相続時精算課税制度について詳しくわからず困惑する姉弟のイラスト

  

◆用語説明:相続時精算課税制度◆

この制度の注意点は、生前贈与した分が相続発生時に相続税の対象額として加算される為、
贈与の際は非課税でも、将来、相続税として課税される場合があるということです。
また、この制度を一度選択すると撤回できず、同じ贈与者からの贈与について、
年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となることも気を付けなくてはいけません。

この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時には、その相続税の計算上、
相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。
そして、計算の結果、相続税の納税を要しない場合には、遡って贈与税がかかることはありません。
なお、2,500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税がかかりますが、
相続税を計算する際に支払った贈与税相当額は控除されます。

  

事例 131配偶者居住権をご存じですか?

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Xさん

少し前に、配偶者居住権という制度ができたらしいですね。興味があるので、教えてほしいのですが。

配偶者居住権について詳しく知りたいという、Xさんからのご相談でした。
Xさんは、以前にお母様の相続手続をお手伝いしたお客様です。
2020年に施工された制度ですので、資料を用意し、まずはお話を聴いてみることにしました。

再婚したXさんは、今の妻・Yさんとの間にお子さんはいないとのこと。
一方で、前妻との間には二人のお子さん(AさんとBさん)がいるそうです。
なんでも、二人の子供とYさんとの関係は最悪だそうで、顔を合わせて話すことすら全くできないという状況だとか。
Xさんは自分亡き後の家族のことを大変心配しておられ、
妻Yさんの生活を守っていくために、何か良い方法がないかと考えていたところ、
とある終活セミナーで「配偶者居住権」という制度を知ったとのことでした。

そんなXさんの想いは、次の通りです。
・Yさんが自分亡き後も自宅に住むことができ、生活に困らないようにしたい
・最終的に自宅の不動産は、長男のAさんに引き継いでもらいたい
・なにより、家族で揉めることがなく円満に相続が終わるように、自分の遺志をしっかりと遺したい

施行されて5年、遺された配偶者の居住権を保護するための「配偶者居住権」は、
初年こそ月の利用件数が一桁であったようですが、令和三年以降、年々利用件数が増えています。
おそらく、Xさんのような想いを持った人々の家族を助ける制度として
今後も、より世の中に普及していくことでしょう。

     

配偶者居住権によって、自分亡き後の相続手続を考える夫と、妻、ゆくゆくは自宅を相続する息子のイラスト。

Xさんが配偶者居住権を設定したいと強く希望するのも、Yさんを想ってのことでした。
それから、公証人と打ち合わせを何度も行い、Xさんのご納得がいく公正証書遺言を作成。
もちろん、Yさんと、お子様のAさんやBさんへの気持ちを込めた付言事項も忘れずに加えました。
そして、遺言を作成し終えたXさんの表情は、安堵されて清々しいものでした。

  

◆用語説明:配偶者居住権◆

まず、前提として、夫(妻)が死亡した場合に、残された妻(夫)は、
住み慣れた自宅での居住を続けることを希望するのが一般的だと思われます。
特に、高齢者である場合には、新たな環境で生活を立ちあげることは
経済的にも精神的にも容易なことではないと考えられ、
このような配偶者の居住する権利を保護すべく、民法の改正によりこの権利が創設されました。

すなわち、この制度を利用することで、
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合、
遺産分割で配偶者居住権を取得することにより、
原則として終身の間、その建物に無償で居住することができるというものです。
なお、所有権自体は子に取得させ、配偶者は無償で居住できる権利を取得します。
さらに、遺言で配偶者に遺贈することもできます。
つまり、自宅建物を所有する者は、遺言により、配偶者に居住権を確保しつつ、
自宅の所有権については自分の子に取得させることが可能となります。

また、この制度を利用すると、所有権よりも低く財産評価されることになるため、
遺産分割では配偶者は多くの預貯金を相続できることになり、
遺言での遺留分侵害額請求に対しても対処できると考えられます。
これにより、老後の生活が困窮する事態は避けられそうです。
加えて、配偶者居住権は、Xさんのように妻と(前妻の)子との間で相続手続の難航が予想される場合に、
難問を一挙に解決する制度だといえそうです。

  

  

  

事例 130連絡が取れない相続人がいるケース

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Aさん

母の相続手続をしたいのですが、弟と一向に連絡が取れません。どうしたらいいでしょうか?

「連絡が取れない弟がいます。」

Aさんからのご相談は、亡くなられたお母様の相続手続についてでした。
お父様のYさんはご健在で、子供はAさんと弟Bさんのお二人とのことですが、
「実は弟について問題がありまして」とAさんが話し始めました。
なんでも、Bさんは学校を卒業後に家を出て、20年以上所在が分からないというのです。
「母とは連絡を取っていたかもしれないが、自分や父には一切連絡もない。」
連絡が取れないどころか、どこで何をしているのかも全く見当がつかず、困り果てた様子です。

 

お母様の相続財産は、ご自宅の不動産と預貯金、保険でした。
しかも、保険はBさん名義で掛けられており、家出したBさんの為に、
ひそかにお母様が貯金していたものと思われます。
さらに、遺言書を遺されていなかったので、Bさんとの遺産分割協議は避けて通れませんでした。
まずは、戸籍を取得していくと同時に、Bさんの住所を調査していきました。
調査の結果、Bさんは東京郊外にお住まいであることが判明しました。
そこで、Aさんから手紙を出してみます。何度出しても反応がなく、
挙句の果てに、書留で出しても受け取ってもらえず戻って来てしまう有様でした。

 

また、Aさんが実際に家を訪ねてみましたが、いつ行っても不在でした。
探偵のように深夜まで張り込みをするわけにもいかず、Aさんは裁判所の力を借りることを決断されました。
つまり、Bさんを相手に遺産分割調停の申立てを行うということです。
遺産分割調停とは、相続人間での意見が対立して遺産分割の話し合いがまとまらない場合や、
いくら連絡しても協議に応じてもらえない場合などに利用できる制度です。
調停申立が受理されると、裁判所から調停期日が指定され、その日に双方が裁判所に集まり、
調停委員と話し合いを行っていきくことになります。
しかし、何回か期日を示しても、Bさんは一度も呼び出しに応じませんでした。

  

連絡が取れない相続人(弟)のことで悩む父親と姉

結果的に、調停は不成立と判断され、遺産分割審判に移行し、
不動産と預貯金は法定相続分で分割するという内容で、裁判所により判断が示されました。
具体的には、不動産はYさん名義に変更して換価し、預貯金は解約してYさんが一旦取得し、
YさんからAさんとBさんに分配するよう、示されました。
これにより、Bさんが相続することとなった財産は、
Bさんと連絡がつくまでYさんが預かることになります。
ひとまず相続手続は完了しましたが、YさんAさんにとっての”完了”はまだまだ先のことです。

 

◆参考◆

 

故人が遺言書を遺していない場合、各相続人は法定相続分に従って遺産を相続します。
また、遺言書があった場合も、相続人全員が話し合って納得すれば、
遺産をどのように分けても構いません。
このように、具体的に誰が何を相続するかを相続人全員による話し合って
決定することを「遺産分割協議」といいます。

ところが、今回のケースのように、いくら連絡しても相続人が協議に応じない、
または、相続人間での意見が対立して協議がまとまらないなど、
遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、
話し合いまたは家庭裁判所の審判により決めてもらう方法があります。
ちなみに、この遺産分割調停は、一部の相続人を除外すると無効となります。
調停手続きでは、当事者双方から事情を聴くなど、各当事者の意向を聴取して、
解決案の提示や、解決に必要な助言を行って、合意を目指した話し合いが進められます。
話し合いがまとまらず調停が不成立となった場合には、
自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質
その他の一切の事情を考慮して、審判することになります。

 

 

事例 129相続放棄と認知の子供

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Aさん

亡くなった主人には住宅ローンの返済が残っているので、相続放棄を検討しています。

相続放棄とは、プラスもマイナスも含めたすべての財産を放棄することです。

今回、亡くなったご主人Xさんには、多額の住宅ローンが残っているため、
奥様のAさんは相続放棄を選択しようとのご相談でした。
一般的には、住宅ローンには団信がついています。
このため、債務者の死亡を申請すれば、住宅ローンはなくなるものです。

  

しかしながら、Aさんにはとある問題が生じていたのです。
それは、Xさんの存命中に住宅ローン返済が滞り、住宅が競売に掛けられていたということ。
しかも、競売金額では住宅ローンを完済できず、その後も残った返済が滞るなど、
遅延損害金が膨らんでいるという惨憺たる状態だったのです。
そのため、自宅も、購入者から借家として借りて住んでいる状況でした。
これでは、既に団信の機能は失われているため、死亡しても債務は消滅しません。
その他の金融資産も限りなくゼロに近かったため、相続放棄したいとのことでした。

  

ちなみに、最近になって成人したお子様が競売された自宅を買い戻していたため、
所有権はAさん側に戻っており、住まいの心配がなくなったこともあっての相続放棄となりました。
ところが、相続人を確定していく中で、今度はより厄介な事実が判明したのです。
それは、ご主人にAさん以外の女性との間に、認知された子供がいたということです。
さらに、認知された子供は、まだ7歳の小学生でした。
Aさん家族の相続放棄後、こんな小さな子に借金という財産が分与されるのは、悪夢でしかありません。
とはいえ、これまで存在も知らなかった認知の子供とその母親への連絡は、非常に躊躇われるものでした。

   

自分の相続放棄後、認知の子とはいえ、小さな子供に借金を背負わせることに悩む女性

だからといって、仮にAさんが知らせなくとも、債権者が通知を出す可能性は高いこと、
そうすれば、自ずとXさんとの関係や死亡の事実を知ることになること、
そして、そうなった時、適切に相続放棄の手続きができなければ、
7歳の子供に多額の借金が降りかかってしまうことに・・・。
Aさんは悩んだ末、認知された子供とその母親に宛ててお手紙を出すことにしました。

   

そのお手紙の中で、Xさんが死亡し、Xさんには債務があったため、Aさん家族は
相続放棄という選択をしたと伝えました。
その上で、認知の子供が相続放棄の手続きをしやすいように、
Aさん側でわかる情報をまとめた下書きと、必要な戸籍謄本も同封し、
放棄をした場合は必ずお手紙を下さいという文言を添えました。
複雑な感情に苛まれ苦しみながら、Aさんができる精いっぱいの対応をしたのでした。

   

◆用語解説:相続放棄/団体信用生命保険(団信)◆

被相続人の財産に属した『一切の権利義務を放棄するか(相続放棄)、
承継するか(単純承認・限定承認)を選択できる』 制度です。
被相続人の財産はプラスの財産(不動産や預貯金)だけでなく、
マイナスの財産(借金等の債務)も含まれるため、
後者がプラス財産よりも多い場合があり、承継した相続人に大きな負担となることも…。
また、例えマイナス財産が多くなくても、相続財産を 承継したくない相続人がいる可能性もあります。
そこで、民法では、相続人の利益保護や意思尊重の観点から、
相続人は一定の期間内に相続放棄することができるとしています。

  

住宅ローンの契約時に加入する保険で、
その住宅ローンの契約者が死亡、又は高度障害になった場合、
それ以降の支払が免除され、相続人はその債務を負うことなく、
住宅を相続することができるというものです。
遺族に対して保険金は支払われない代わりに、
死亡した時点で、保険会社が残債務に当たる額を住宅ローンの引受先である銀行等に支払い、
これにより債務は消滅するという仕組みです。

   

   

   

事例 128相続する土地が思いもよらない場所に…

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Aさん

父から相続するのは自宅不動産と周辺道路だけのはずですが、原野商法による地方土地の存在の可能性を聞き、心配になっています。

お父様のXさんのご相続の相談でみえたAさん。
先祖代々東京の下町で暮らしてきたため、
それならば、相続する土地は自宅不動産とその周辺道路だけのはず、と、
まず、Aさんはご自分で相続手続きをしようと試みたそうです。
ところが、都内のご自宅不動産の評価が高く、
それゆえ、税務申告や不動産の名義変更が必要な可能性もでてきたようで、
とても手に負えないと、当センターにいらしたとのこと。
ちなみに、相続人は奥様のBさんとAさんを含む3名のお子様、計4名です。

実際に、最初のご面談で持参された財産一覧には、
不動産についてはご自宅とその周辺道路(私道)の土地だけということで、
また、固定資産税の通知書も、都税事務所発行の通知書のみでした。

    

実は、最初の面談でAさんにお伝えしたことがありました。
それは、地方に土地を所有している可能性についてです。
というのも、いわゆる原野商法によって地方の土地を所有している方が、
Xさんと同世代の方に散見されるからでした。

   

すると、当初は可能性を否定していたAさんから、
「北海道と沖縄県の土地の権利証が倉庫の中から見つかった」と連絡がありました。
もし、相続する土地が遠方にあったら…と気になったAさんは、
もう一度、お母様と不動産の書類を家中探されたようでした。
相続人及び相続財産の調査を行い、着々と財産の総額が確定しつつあるタイミングでした。

    

はたして、当該の土地について登記簿謄本を取得して確認をしたところ、
結果として、いずれの土地も間違いなくXさん名義のものと判明しました。
さらに、地目は原野で固定資産税評価額が低く、固定資産税がかからないため、
通知が送付されず、全く気づかれなかったことが推測されました。

相続する土地が、まさか、北海道や沖縄県の土地があると思ってもみなかったAさん。
ともあれ、評価価値及び将来の有用性の低さを鑑み、できれば手放したいとのご希望を持たれました。
しかし、売却や贈与をするには、相続人に名義を変更そしなくてはけませんので、
まず、他の財産と共に遺産分割協議を行い、地方の土地はいったんAさん名義に変更することになりました。
それにより、土地の処分についてはもう少し時間がかかりますが、相続税の申告には何とか間に合いました。

   

相続する土地が思いもよらない地方に存在して驚く相続人

   

◆参考◆

   

不動産を所有している場合にかかる税金に「固定資産税」があります。
1月1日現在の土地・家屋及び償却資産の所有者に対し、
その固定資産の価格をもとに算定される税額を所在する市町村が課税する税金です。
そして、地価の変動に応じた適正な価格に合わせる為、3年に1度の基準年度に見直しが行われています。

  

本来は毎年、不動産所有者にこの固定資産税の納税通知書が送付されますが、
今回のケースのように、不動産の価格が低いと通知書が送付されない場合があります。
それは、同一の市町村内で同一の者が所有している土地の合計額又は家屋の合計額が、
土地については30万円、家屋については20万円に満たない場合、固定資産税が課税されないためです。
そのため、今回のケースのように、山林や原野に土地を所有していたとしても固定資産税が課税されずに、
通知書が届かず、所有の事実を気付くことができない場合があるのです。

  

  

事例 127遺言は公正証書での作成が安心安全

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Xさん

自分には子供がいないので、万が一のことがあった時のために遺言を作成したいと思っています。どうしたらいいでしょうか?

Xさんがセンターを訪ねて来られました。
かなりのご高齢でしたが、とてもしっかりされていました。
お話をうかがうと、遺言書を作りたいとのこと。
というのも、既に亡くなられた奥様との間には子供がなく、
そのため、自分に万が一のことがあった時に備えておきたいそうです。
遺言は公正証書で作成することが最も望ましいとされています。
そこで、行政書士をご紹介することとなりました。

さて、遺言書を作成するにあたり、相続人となられる方の調査から始めました。
推定相続人は、Xさんの兄弟と、既に亡くなられた兄弟の子供(甥姪)で、
その数、実に10名に上りました。
このことから、相続時には遺産分割協議が難航することが予想されます。
実は、Xさんもその事実を認識されていたそうです。
そして、日ごろから身の回りの世話をしていたAさん(相続人の一人)に
すべての財産を残したいというお考えでした。

また、Xさんのご希望はAさんもご存じだったようです。
それもあって、公正証書遺言作成の手続きはスムーズに進みました。
無事に遺言を作成でき、Xさんは安心されたご様子でお帰りになられました。

Aさんから連絡があったのはその翌日でした。
「今朝、Xさんが亡くなりました。」
あまりに突然で、その言葉の意味を理解できませんでした。
つい昨日まで、あんなにお元気だったのに…。
むしろ、Xさんは常に自分が亡くなった後のことを考えて
ずっと不安やストレスを感じていたそうです。
しかし、ようやく遺言書を作成してホッとされたのではないかということでした。

そういえば、思い返せば、昨日の帰り道のXさんの表情は、
ご相談にいらした当初に比べて柔らかかったように思えました。
遺言作成の次の日にXさんが亡くなられたことは残念でしたが、
公正証書遺言があることにより、相続手続は実にすんなりと進めることができました。
そして、Aさんに全財産を相続させたいというXさんの遺志は、
相続人の間で揉めごとを生じさせることなく実現することができたのです。

「遺言は公正証書で」とアドバイスし、お手伝いできてよかったケースでした。

  

自分の死後を心配して、遺言は公正証書で作成しようとする老人

  

◆参考◆ 

亡くなった方に子や孫がおらず、ご両親(直系尊属)も既に亡くなっていると、、
その兄弟姉妹が相続人となりますが、その兄弟姉妹も既に亡くなっているとなると
今度は、その子(甥姪)が相続人となります。
そのような場合、今回のケースのように当事者が多くなり、
相続手続が煩雑なものとなることはもちろん、相続人同士が疎遠であることが多く
結果、相続人間で話し合う遺産分割協議が難航することも想定されます。
こうした”争う”相続のリスクを開けるために、遺言書作成が望まれます。

  

また、遺言書の作成をお勧めする理由は遺志を反映できることです。
もし、特定物を譲り受ける者を指定したい場合(事業は長男に継がせたい等)や
法定相続人以外に財産を渡したい場合(孫に遺贈したい、公益団体に寄付したい等)にも
遺言書は威力を発揮します。
特に、遺産分割協議では法定相続人以外に財産を渡すことは出来ないので、
そうした想いがある場合こそ、遺言書を書いておく必要があります。

  

  

事例 126相続対策としての養子縁組

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Aさん

姉の相続でご相談したいです。
きょうだいが多く、相続手続が大変になることを懸念して、自分の妻が養子になっています。

お姉様のXさんを亡くされたAさんよりご相談をいただきました。
Xさん夫婦にお子様はなく、ご主人に先立たれた後、
ご自身のきょうだいが多いことで、相続が複雑化することを懸念し、
相続対策について、Aさんと相談して、
結果、Aさんの妻Bさんと養子縁組をされました。
かくして、Xさんの相続人はBさん一人となりました。

  

さて、Xさんの相続財産は金融資産が主でした。
そのことから、亡くなる2年前と1年前に甥のCさんたちへ、3人に100万ずつ贈与していました。
Aさんによると、Xさんが相続税対策の一環で、贈与税の申告義務が生じない範囲で行ったということでした。
また、Xさんはご自身が掛けていた生命保険契約をCさんに贈与するつもりでした。
契約者をCさんに変更しており、被保険者はXさん、契約者・受取人がCさんで、
Xさんの死後、Cさんが死亡保険金を受け取っています。

  

相続税は、相続財産が基礎控除の額を超える場合に申告する必要がありますが、
Xさんの場合、相続人がBさん1人しかいないので、相続税の基礎控除は低くなります。
つまり、相続税の負担を軽減する為の対策として、
生前贈与することで相続財産を減らそうとしていたようです。

しかしながら、結論としてその対策は失敗となりました。
なぜなら、生命保険に関して、契約者をCさんに変更しても、
保険料負担者がXさんであることには変わりがなく、贈与とはならないからです。
Cさんは死亡により死亡保険金を受け取っているので、相続税の納税義務が生じます。
しかも、Cさんは法定相続人ではないので、生命保険の非課税枠の適用もありません。
また、そのCさんが3年以内に受け取った贈与財産(2年間で200万円)については、
なんと、相続財産に計上されてしまいます。
さらに、Cさんの場合は相続税が2割加算となります。
相続税対策として講じた策が、却って裏目に出てしまい、
Cさんまで相続税を支払うこととなってしまったのでした。

相続対策・相続税対策を諸々講じたが、結果としてあまりいい結果にならなかった家族の図

◆参考◆

生命保険契約において、契約者を変更した場合、
それまで払ってきた保険料相当額を贈与したように見えますが、
その時点では保険金の支払いは発生しておらず、贈与とはなりません。
相続税法上、保険金受取人が保険料を負担していない時は、
保険料の負担者から保険金等を相続、遺贈又は贈与によって取得したとみなされ、
保険料を負担していない保険契約者の地位は、相続税等の課税上、
特に財産的に意義があるものとは考えられていないからです。
(※変更後に解約して解約返戻金を受け取った場合には贈与税が課税されます。)

死亡保険金が相続税の課税対象となる条件は、その保険料を被相続人が負担していたときです。
そして、この死亡保険金の受取人が相続人である場合、
受け取った保険金の合計額が非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を超える時に、
その超えた額が相続税の課税対象となります。
ただし、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税枠の適用はありません。
Cさんは相続人ではない為、非課税枠の適用を受けられませんでした。
そのため、今回のようなXさんからCさんへの契約者変更は贈与とはならず、
相続対策・相続税対策として意味を持たなかったのです。

 

  

事例 125超高齢の相続人

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Aさん

妹が亡くなりました。旦那と子供に先立たれているので、相続人は102歳の母親一人です。

超高齢 化社会、人生100年時代、と言われる昨今において、
相続人も高齢化の一途をたどる一方です。
高齢であるほど、身体能力や認知機能も衰えてきますので、そうした配慮が必須となります。
相続人が認知症の場合は、遺産分割協議もご自身で行えませんし、
今回のケースも、唯一の相続人が102歳とのことで、まずは初回面談で詳しくお伺いしました。

Aさんの妹、Xさんにはご主人もお子様もいらっしゃいました。
しかし、ご主人が3年前に、お子様も2年前に亡くなっています。
また、お父様も既にお亡くなりで、お母様であるYさんがご健在でした。
この唯一の相続人となるYさんが102歳。
年齢的に認知症が心配されましたが、とてもしっかりとしていらっしゃり、
『Xも婿も孫も順番を守ってもらわないと困る』と大変悲しそうなご様子でした。

お元気とはいえ超高齢なYさんは、Aさんのサポートのもと、Xさんの相続手続に着手。
すると、Xさんのご主人甲さん名義の不動産や、お子様乙さん名義の株式が出てきました。
甲さんが亡くなった時の相続人はXさんと乙さんで、
乙さんが亡くなられた時の相続人はXさんとなりますので、
順序だてて手続きをしていき、最終的に、全ての財産をYさんが相続することになります。
無事にXさん、甲さん、乙さんの3名分の手続が完了となり、Yさんは喜んでくださいました。

しばらくして、Yさんが逝去されたと知らせを受けました。
103歳の大往生でした。
Yさんの相続人は、Aさんお一人です。
通常なら、年長者から順に引き継いでいくはずの相続財産ですが、
婿から孫へ、孫から娘へ、娘から母へと引き継がれた財産を、Aさんがご相続されることとなりました。
「これからの人生を先に亡くなったみんなのために使っていきたい。家を守っていきたい」
Aさんは、強い気持ちをお話ししてくださいました。
しっかりと引き継がれたお母様の思い、不動産よりも、預貯金よりも素敵な相続財産だと感じました。

    

◆参考◆

死亡した時点で第一順位の相続人となる子や孫(直系卑属)がいない場合、
第二順位である親(直系尊属)が相続人となります。(今回の事例パターン)
なお、乙さんに子(Xさんの孫)がいれば、代襲相続人として相続人となりますので、
超高齢者の親であるYさんは相続人にはなりません。
また、Yさんが亡くなっていて、親も子もいない場合には、
兄弟姉妹(第三順位)であるAさんがXさんの相続人となります。

事例ではXさんの配偶者・甲さんが亡くなり、その後に子・乙さんが亡くなっていました。
そのため、甲さんの相続財産は、甲さんからXさんと乙さんへ、乙さんから親のXさん、
そして、Xさんが亡くなったため、義母であるYさんへと引き継がれました。
では、仮に子の乙さんが甲さんより先に亡くなっていたとしたら、どうなるでしょうか?
甲さんが亡くなった時点で、既に子の乙さんがいない場合です。
そうすると、相続人は妻のXさんと甲さんの親(直系尊属)となり、
親が既に亡くなっていれば、甲さんのご兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)が相続人となります。
そのため、甲さんの相続手続は、Yさん一人だけでは解決できなかったと考えられます。

    

超高齢の相続人と、そのサポートをする娘、被相続人たち(娘夫婦と孫)

   

   

事例 124自宅の名義が変更されていない不動産

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Aさん

親の住んでいた自宅が、親の名義ではありませんでした。相続の手続きはどうしたらいいですか?

自宅の名義を確認したことはありますか?

自宅の名義は当たり前に親の名義になっている、と、信じて疑わなかったAさん。
お父様のXさんの相続についてご相談を受けました。
まず、ご相続人を確認します。
お母様は5年前に他界され、ごきょうだいはいないということで、相続人はAさんおひとり…
したがって、本来ならスムーズに相続手続が進むはずでした。

見落としがちな名義人

ところが、Xさんのご自宅の不動産の調査を行ったところ、
結果的に、不動産はXさん名義ではなく、お母様のお姉様のZさん名義、
つまり、Aさんにとっては母方の伯母名義であることがわかりました。
いずれにせよ、Zさんは2年前にお亡くなりになっているとのことでした。

自宅の名義人を確認

また、Zさんは独身で子供もいなかったことから、その相続についても、
養子縁組等が無い場合には、Aさんが相続人になる可能性がある旨を説明し、
その上で、Zさんの相続調査も開始しました。
そして、戸籍を取り寄せた結果、Zさんの相続人はAさんをはじめ、
Aさんの従兄妹のBさんとCさんであることが分かりました。
さらに、遺言書はなく、不動産の他にZさん名義の預貯金などが数件あることがわかりました。
第一に、Zさんの相続について、Aさん、Bさん、Cさんの相続人全員で話し合いを行い、
全相続財産をAさんが取得し、他の相続人へは代償分割を行うこととなりました。

なお、お父様の相続についてはすぐにお手続きが完了したのですが、
結果として、Zさんの相続を含めて全ての手続が終わるまでに半年を要しました。
「相続手続はその都度行わないと後々大変なことになるのですね!」
Aさんは、実感を込めておっしゃっていました。
とはいっても、Zさんの場合はお亡くなりになられてからそれほど年月も経っておらず、
それゆえ、預貯金等をすぐに見つけることができ、無事に相続手続を完了することができました。
しかしながら、時間が経過をすればするほど財産を探すことも困難になり、新たな相続が発生することで、
どんどん相続人が増え、手続を完遂できなくなるということも生じます。
相続手続は放置をせずに、その都度行うことを強くお勧めいたします。

  

自宅の名義が思っていた親の名義ではなかったため、途方に暮れる男性のイラスト

  

◆参考◆

●相続手続での名義変更の注意

相続には、相続税の申告納税をはじめとした、期限が定められている手続きもありますが、
一方で、遺産分割協議や不動産や株式等の名義変更、
預金口座の解約などの期限が定められていない手続きもあります。
特に不動産については、名義変更せず既に亡くなっている父又は祖父名義のままで、
固定資産税を納税しながら住み続けているご遺族の方をお見受けすることがあります。
実際には、そうして住み続けていくことはできますが、
相続の手続きをその都度行わず放置しておくと、
いざ名義変更や解約手続きを進める際にスムーズに行かなくなる恐れがあります。

●相続登記の義務化

また、不動産の相続登記がなされていないことが主な原因と言われている
「所有者不明土地」の問題を解決するための制度が、2024年4月から開始となりました。
それには、不動産を相続した場合や、所有者の住所を変更した際の登記申請を期間を設けて義務化し、
遺産分割協議の期間も設定されます。
加えて、相続した土地で、管理が厳しくなった土地を国庫に返納できる制度も新設されます。

  

【相続登記の義務化については、東京法務局の関連ページもご参照ください】

  

   

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