事例 118自筆で書いた遺言書

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Aさん

父の自筆による遺言書が出てきたのですが、どうしたらいいでしょうか…?

自筆で書いた遺言書には注意が必要です

父親Xさんが自筆で書いた遺言書があるというAさんから相談がありました。
自筆による遺言書は、家庭裁判所に提出して検認を受けなければならず、
本来は、勝手に開封することはできません。
しかし、その遺言書は封がされておらず、Aさんは中を見てしまったようでした。

また、ご家庭のご事情を聞いてみたところ、Xさんは、Aさんのお母様Yさんとは籍を入れておらず、
内縁関係のままでしたが、実子のAさんと妹Bさんを認知し、共に暮らしていました。
Xさんの相続人は自分たち兄妹だけだと思っていたAさんでしたが、
遺言書には、Yさんと出会う前に離婚した前妻との間に生まれたCさんの名前がありました。
会ったことのない兄弟の存在を遺言書で初めて知り、対応に困って相談にお越しになったということです。
 

①自筆証書遺言の注意点

まず、今回の事例のように、封がされていないなどの理由で遺言書が有効でない場合は、
遺言書なしの相続手続と同様に、相続人全員で遺産分割協議が必要となります。
つまり、Aさんは会ったことのないCさんと協議をしなければなりません。
また、Xさんの相続財産は、預貯金の他はAさん親子が現在も住んでいる一戸建ての不動産で、
Aさんとしては、この自宅を何とか自分たちで相続したいという願いでした。
そして、実際の遺言書には、Aさん達の希望通り
「YさんとAさん及びBさんに不動産を相続させる」との記載がありました。
 

②自筆証書遺言の落とし穴

Xさんは、一緒に暮らしてきたAさん母子の今後の生活を案じ、
自宅を相続させたい気持ちで遺言を残されたのでしょう。
しかし、残念ながらこれでは登記ができません。
共有での不動産登記は可能ですが、3人の持分が示されていないからです。
しかも、Yさんは相続人ではないため「相続」ではなく「遺贈」に当たり、登記原因も異なります。
くわえて、預金に関しての記載がなかったことなど、
自筆で書いた遺言書は、作成が気軽である反面、その記載の仕方が明確でないと、
その意思を反映した相続を行うことはできないという落とし穴があるのです。
  

とはいえ、Cさんに対しては、離婚の際に母親に多額の財産分与したので相続させない、
という記載があるなど、Xさんの遺志は確認できる内容でした。
そこで、AさんはCさんに連絡を取り、Xさんの遺志を実現すべく、
時間をかけてでも理解を求めていくと強い決意を示され、
まずは遺産分割協議を開始するところから、お手続きを開始することになりました。

自筆で書いた遺言書には注意すべき点が多くあります。

◆参考◆

自筆証書遺言の保管

遺言書は、その方式として主に、遺言者が自書して作成する自筆証書遺言と、
公証役場で公証人が作成する公正証書遺言とがあります。
このうち、自筆証書遺言を法務局が保管するという制度が創設されました。
(法務局における遺言書の保管等に関する法律 令和2年7月10日施行)
  

制度の特徴

そして、今般、創設された制度では、法務局が自筆証書遺言を預かることで、
紛失や隠匿、改変等を防止し、その効果として家庭裁判所での検認を不要としており、
自筆証書遺言が持つ危険や煩雑さを回避できるといえます。
また、死後に相続人の一人が法務局に開示を請求すると、
他の相続人に通知されるという新しい制度も注目です。
とはいえ、公正証書での作成が安全・確実なのは変わらないでしょう。

                     ↓ ↓ ↓ ↓

自筆証書遺言書保管制度については、法務省の特設ページをご参照ください。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html 

 

 

事例 99自筆証書遺言を書いてもらいました

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Aさん

夫の自筆証書遺言があるのですが、震える手でなんとか書いた、ようやく読めるような状態のものです。相続手続に使うことはできますか?

自筆証書遺言は検認手続きが必須

Aさんから、ご主人のXさんが亡くなったと、ご相談をいただきました。
Aさんご夫婦には、お子様はいらっしゃいません。被相続人に子や孫がいない場合、相続人は直系尊属(父や母)となりますが、父や母、祖父母が既に亡くなっていらっしゃれば、相続人は兄弟姉妹になります。
さらに、兄弟姉妹で既に亡くなっている方があれば、その子(甥姪)が相続人となります。Xさんのご兄弟姉妹はほとんど亡くなっていらっしゃるので、相続人は甥姪含めて16人です。すなわち、相続手続に当たっては、この全員で遺産分割をしなければなりません。Xさんの相続財産はご自宅不動産と預金です。

「これがあるのですが…」Aさんはファイルから紙を何枚か出されました。

自筆証書遺言の注意点①

見ると、震えた字で「ゆいごんしょ」と書いてあります。
Xさんは認知症等を患ってはいませんでした。ところが、手が震えて、字がまともに書けない状態でした。そこで、練習を重ねて書き、何とか読むことができる遺言書が何枚かありました。
X さんの遺言書は「わたしのざいさんをAさんにゆずる」という内容のものでした。
ただ、そのうちのほどんどが形式不備でありました。自筆証書遺言は、日付や署名、押印が必須となるのです。そのうえ、自筆で書かれた遺言書は検認手続きを経ないと相続手続に使うことができません。しかも、検認には相続人確定の為の戸籍を取得する必要があるのです。

自筆証書遺言の注意点②

幸い、日付も署名も押印もすべて揃っているものが1枚ありました。
早速、相続人全員の戸籍を取得して、家庭裁判所での検認手続きに入りました。今回は相続人が多く、戸籍取得に時間はかかりましたが、無事に検認に入ることができました。
しかし、検認が終わり、いざ手続きに入ろうとする段階になって、もう一つ必要な手続きがあると判明。
司法書士によると、「ゆずる」という文言だと「遺贈」と解されるとのこと。そのため、登記を行うには相続人全員の関与が必要だというのです。この場合、遺言執行者の選任を裁判所に申し立て、選任されれば、執行者により手続ができます。

そこで、最終的にはAさんを遺言執行者として申立を行いました。ここでも時間を費やすこととなり、結局、相続手続完了までに約半年かかってしまいました。
それでも、Aさんは次の様に仰ってくださいました。

「時間はかかったものの、遺言書がなかったらもっと大変だったでしょう。手続きすらできなかったかもしれない。わたしは今後も家に住み続けられるから、何とか書いてもらってよかった。」

◆参考◆

平成31年1月13日自筆証書遺言の方式が緩和されました!!

●緩和前の制度では…

これまで、自筆証書遺言を作成する場合には、全文を自書する必要がありました。遺言書部分はもちろんのこと、添付する財産目録についても、パソコンでの作成や、通帳のコピーの添付は認められていませんでした。ただでさえ全文の自書は大変ですし、特に、お年寄りや財産の多い方にとっては、相当な負担となっていました。


●緩和後の制度のメリット

今回の見直しで、以下の様に方式が緩和された為、作成時の負担が軽減されることとなりました。
「自筆証書遺言に、パソコンで作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようにする」
さらに、財産目録には署名押印をしなければならないので、自筆でない添付物でも偽造も防止できるようになります。

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