事例 107対策をせず、押し付け合いになった遺産。

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Aさん

実家はたくさんの土地や建物、田畑を持つ旧家です。
父が亡くなり、それらの遺産を三姉妹でどう相続すればいいのやら…。

生前対策を考えておきたい財産はありませんか?

今回は、生前に対策をしなかったために大変な思いをした事例です。
お父様が亡くなったとのことで相続人全員が揃ってご相談にいらっしゃいました。
長女Aさん、二女Bさん、三女Cさんの三姉妹です。

ご実家は代々続く旧家とのことです。三姉妹は皆嫁ぎ、現在は誰も実家を継ぐ人がいないとのことでした。
「旧家にとって『跡取り』はとても重要なんです。」と口々に思いつめたようにおっしゃいます。
三姉妹の結婚話が持ち上がるたびに、そのことが原因で揉めたこともあったようです。
その後、跡取り問題は封印され、3人とも嫁ぎ、年月が流れ
そして、このたび、お父様がお亡くなりになられたとのことでした。

「これから先、実家の広い敷地やお墓を誰が引継ぎ、どう管理すればいいのか…」
聞けば、実家には古い母屋や離れ、何十筆もの田畑も所有しているそうです。三姉妹は途方にくれておられました。しかも、広大な宅地は高額な評価額となり、相続税も納めなければなりません。

「いっそ相続放棄をしてしまいたい。」
との思いも過ります。しかし、親戚の叔父叔母の手前、そんな無責任な事が許されるはずがないとのこと。すると、事態はそれぞれの配偶者を巻き込んでの分割協議へ発展。
「遺産の取り合い」ではなく「押し付け合い」となったのです。
仲の良かった三姉妹の間には、話し合いを重ねるごとに不穏な空気が漂うように…。
ついには「長女VS二女&三女」という関係になってしまいました。
最終的には、長女のAさんが全てを相続する形で協議が成立。親戚の叔父叔母からの叱責や、相続税の申告期限も迫る中での苦渋の決断でした。

◆参考◆

押し付け合いになる前に…

その後、Aさんから聞いたお話です。
「相続税は相続した預金で何とか支払うことができました。しかし、これから先はどうしたらいいか…。」
このままでは、土地や建物の固定資産税や土地の管理費用を払い続けることになります。
「とても預金では賄えません。将来的には土地を切り売りするしかありません。そうなればきっと妹達や親戚は私を責めるでしょう。幼い頃から三姉妹平等に育ってきました。でも、お墓も私が守り続けなければならない。まさか、こんなときだけ長女の責任を負わされるなんて…。」
と、Aさんは悲しそうにおっしゃっていました。
ときに、先祖代々から受け継いできた「家」が子孫を苦しめる事になるのです。
現代では価値観の多様化から、「誰も相続したくない」という相続問題も増えそうです。
押し付け合いになる前に、生前対策を考えておきたいですね。

 (例)・誰も住んでいない実家
    ・地方にある山林、原野の処遇
    ・祭祀財産の承継  など

●不要不動産の対策

今回の事案のように、受け継いできた実家不動産だけでなく、将来の開発を期待して買った山林や原野 などの不要不動産についても、遺産分割協議の際に、相続を押し付け合うということがあります。相続により、行ったこともない空地の固定資産税を負担することになりかねないからです。そのような不動産をお持ちの場合は、相続による混乱が生じるのを防ぐため、前もって売却先を探しておくなどの生前対策が望まれます。

●祭祀財産による対策

お墓や仏壇や位牌等を「祭祀財産」といいます。相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人に承継されるのが原則ですが、「祭祀財産」は第一に被相続人の指定に従って、次に慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に承継されることと民法で定められています。

 実際の遺産分割協議では、祭祀財産を承継する人が「お墓を守っていくから」という理由で実家を相続したり、財産を多く相続したりすることがあるようです。これらの祭祀財産は「財産」というより「先祖を敬う気持ち」によるところもあり、受け継ぐ人にとって大きな負担となる事もあります。今回の事案のように押し付けあう「争続」が発生しないよう、生前の話し合いが重要です。

事例 105相続人以外へ財産を贈与できますか?

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Aさん

叔父の相続財産を、相続人以外の方に受け取ってほしいのです。どうしたらいいでしょうか?

民法改正により、相続人以外の親族へ遺産分配ができるようになりました。

「相続人以外の方に、相続財産を受け取ってもらえますか?」

Aさんが叔父の相続手続きの相談でいらっしゃいました。
叔父のXさんは生涯独身で5人兄弟の末っ子でした。また、既にご兄弟も全員お亡くなりになっているそうです。
そのため、相続人はAさんを含む甥姪7人とのことでした。
そして、Aさんが代表として動くことになったため、相談に見えたということでした。その理由は、一番お若いことと法定相続分が最も多いことだそうです。

お話をするうちに、Aさんが冒頭の質問をされました。
なんでも、相続人以外に、ぜひ財産を受け取ってほしい方がいるそうで…。

①Xさんのごきょうだい

先述の通り、叔父Xさんのごきょうだいは既に他界していますが、少々複雑だったようです。
まず、いわゆる異母兄弟が3人(長女Pさん、長男Qさん、次男Yさん)。そして、両親が同じZさん(Aさんのお母様)でした。ただ、母親が違うとはいえ、長女Pさんは弟Xさんを可愛がっていたそうです。
それは、Pさんの嫁ぎ先の北海道にXさんも居を移したことからも明らかでした。そして、Pさん亡き後も、その長男Rさん家族がXさんの面倒をみていたというのです。

②真の貢献者Bさん

Aさんがお葬式のために北海道に行くと、Rさんは10年前既に他界していました。
さらに、奥さんのBさんはご主人が亡き後、義理の母であるPさんを看取ったそうです。
その後、夫の叔父にあたる独居老人であったXさんのお世話を、子供たちと一緒にしてくれていたそうです。
それほど尽くしてくれたにもかかわらず、相続財産を受け取ることはできません。BさんもRさんのお子様もXさんの相続人とはならないからです。それは、RさんがXさんより先に死亡したためです。Aさんはそのときに初めて、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪一代限り、と知りました。

「なんとしてもBさんご家族に相続財産を受け取ってほしい。真の貢献者は彼女です。財産を受け取る権利があります!」

そう思ったAさんは、東奔西走の末、当センターに辿り着いたということでした。

まず、Aさんは税理士に、Bさんに贈与税の負担のかからない方法を確認しました。そして、Xさんの相続人(Aさんの従兄弟たち)一人一人に掛け合いました。最後に、Cさんに一役買っていただくことで分割協議がまとまりました。相続人がそれぞれ相続分から出し合い、Cさんの相続分に500万円上乗せするという内容です。
その後、Cさんから1年に100万円ずつ、計5年間、Bさんに贈与してもらうことになりました。
亡Rさんの妹Cさんは、北海道にお住まいでBさんと親交がある方だったのです。

相続人以外の貢献者は法定相続人の配偶者とその子供達

◆参考◆

●相続人以外の貢献者

「なによりその努力を皆さんが認めてくださったことが嬉しい」
何の見返りも期待せず介護をしていたBさん親子も、大変喜ばれました。
故人のお世話をしてくれていた人にこそ遺産を渡したいというAさんの優しい熱意。それが、他の相続人の心を動かした事案でした。

●「特別寄与料」の請求

民法改正により、相続人の親族(相続人以外の者)の貢献を考慮するための方策の条文が追加されました。
(2019年7月1日施行)
これまで、多大な貢献をした場合でも、相続人以外の者は遺産の分配を受けられませんでした。
それでは実質的公平に反するため、今般の民法相続法の改正がなされました。
相続人以外の者であっても、一定の貢献をした場合には相続人に対して「特別寄与料」を請求できることとなりました。(ただし相続人の親族に限る)

参考サイト:法務省(相続法の改正)

●今回のケース

今回は贈与の形で、本来は遺産を受け取ることのできないBさんへの優しさが実ったケースでした。
今後は、この法律改正が施行されたため、次のような場合の請求が可能となります。

 例)長男の死亡後、その妻が義父の介護をしており、その義父が亡くなった場合。

こうした場合に、長男の兄弟姉妹に対して、妻が直接金銭の請求をすることができるようになりました。
(相続人以外の被相続人の親族が無償で療養介護等を行っていた場合に限る)

事例 104遺産分割協議が出来ず、生活費が心配です。

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Bさん

兄弟と連絡が取れず、父の相続で遺産分割協議ができないため、高齢の母が生活費に困っています・・・。

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。

Xさんが急死されたということで、奥様Aさんと長男Bさんがご相談にみえました。
二男のCさんが三人目の相続人です。しかし、ご兄弟間の折り合いが悪く、かれこれ20年以上音信不通状態。
いつしか、居所も分からなくなり、葬儀の連絡すらできていないとのことでした。
また、ご夫婦間では全ての財産をXさんが管理していました。そして、Aさんは毎月の生活費をXさんから受け取るようにしていました。
そのため、当面の生活費だけでも…と、取り急ぎ預金をおろしに銀行に行ったAさん。
ところが、「相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要」と言われてしまったそうです。
Aさんは途方に暮れていらっしゃいました。
「相続人全員のと言われても、二男の行方も分からないのに…」

①相続人の居所を調査

預貯金は相続財産として遺産分割の対象となります。
そのため、預金を下ろすには遺産分割協議が必要不可欠です。
そして、それは銀行の案内通り、相続人全員で行う必要があります。
まず、戸籍や附票を取得して調査したCさんの住所宛に連絡をしていただきました。
ところが、Bさんとの長年の確執からか「協力したくない」の一点張り。母親であるAさんからの連絡でも同様とのことでした。
Cさんが応じてくれない限り、遺産分割協議を進めることができず、預金を下ろすことができません。
それはつまり、Aさんの当面の生活費が確保できないということでもありました。

②相続財産以外での生活費確保

しかも、しばらくは葬儀代や未払いの病院代などの臨時出費がかさむ時期です。
そんな中、実は、Cさんの居所を調査と同時にしていたことがありました。相続財産以外の資金についての請求です。
生命保険は相続財産に当たらないので、遺産分割協議をせずともAさんが受け取ることができます。
幸い、Xさんは生命保険をかけていたため、まず保険の請求を着手していただきました。
また、同様の遺族年金も早急に請求することにしました。
一方で、相変わらずCさんの態度は頑なです。
そうこうしている内、死亡保険金が支払われ、その後、無事に遺族年金も受け取ったAさん。
ようやくBさんも、お母様の生活費の心配を取り除くことができました。

その後、金銭的に安心のできたAさんとBさんは、根気よくCさんのもとに足を運びました。
そして、ずっとCさんの心配をしていたXさんの思いを何度も伝えました。これからは、家族としてもう一度やり直したいと話しをし続けました。
その甲斐あって、最終的にCさんは遺産分割協議への協力に応じてくれました。
無事に相続手続が完了し、初盆には皆さんでお参りできたということでした。

遺産分割協議に際し、長年の確執から和解し合った兄弟と、ほっとする母親。

◆参考◆

●遺産分割協議に関わる民法(相続法)の改正

遺産分割協議終了前の、共同相続人の一部からなされる預貯金の払戻請求については下記の通りとされていました。
「預貯金も遺産分割の対象とされ、遺産分割協議が終了しなければ一部の相続人が預貯金の払戻を受けることができない」(2016年12月19日の最高裁判所大法廷決定)

しかし、それでは今回のケースのように当面の生活費など有事における相続人の資金不足が深刻化してしまいます。
こうした不都合を回避すべく、早急な法整備が待たれていたのです。
そこで、ついに今般の民法(相続法)改正で預貯金の払戻制度が創設されました。
民法第909条の2が盛り込まれ、各相続人は遺産分割前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。(2019年7月1日施行)

●その他の改正

このほかにも家事事件手続法を改正して、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断により預貯金の仮払いを得る方策も設けられました。
家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しが受けられる金額には上記のとおり限度額が定められていることから、あくまでも当面の資金需要に対応するためということで、大口の資金需要がある場合については、家庭裁判所の判断を仰ぐということになると考えられます。

参考サイト:全国銀行協会

事例 99自筆証書遺言を書いてもらいました

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Aさん

夫の自筆証書遺言があるのですが、震える手でなんとか書いた、ようやく読めるような状態のものです。相続手続に使うことはできますか?

自筆証書遺言は検認手続きが必須

Aさんから、ご主人のXさんが亡くなったと、ご相談をいただきました。
Aさんご夫婦には、お子様はいらっしゃいません。被相続人に子や孫がいない場合、相続人は直系尊属(父や母)となりますが、父や母、祖父母が既に亡くなっていらっしゃれば、相続人は兄弟姉妹になります。
さらに、兄弟姉妹で既に亡くなっている方があれば、その子(甥姪)が相続人となります。Xさんのご兄弟姉妹はほとんど亡くなっていらっしゃるので、相続人は甥姪含めて16人です。すなわち、相続手続に当たっては、この全員で遺産分割をしなければなりません。Xさんの相続財産はご自宅不動産と預金です。

「これがあるのですが…」Aさんはファイルから紙を何枚か出されました。

自筆証書遺言の注意点①

見ると、震えた字で「ゆいごんしょ」と書いてあります。
Xさんは認知症等を患ってはいませんでした。ところが、手が震えて、字がまともに書けない状態でした。そこで、練習を重ねて書き、何とか読むことができる遺言書が何枚かありました。
X さんの遺言書は「わたしのざいさんをAさんにゆずる」という内容のものでした。
ただ、そのうちのほどんどが形式不備でありました。自筆証書遺言は、日付や署名、押印が必須となるのです。そのうえ、自筆で書かれた遺言書は検認手続きを経ないと相続手続に使うことができません。しかも、検認には相続人確定の為の戸籍を取得する必要があるのです。

自筆証書遺言の注意点②

幸い、日付も署名も押印もすべて揃っているものが1枚ありました。
早速、相続人全員の戸籍を取得して、家庭裁判所での検認手続きに入りました。今回は相続人が多く、戸籍取得に時間はかかりましたが、無事に検認に入ることができました。
しかし、検認が終わり、いざ手続きに入ろうとする段階になって、もう一つ必要な手続きがあると判明。
司法書士によると、「ゆずる」という文言だと「遺贈」と解されるとのこと。そのため、登記を行うには相続人全員の関与が必要だというのです。この場合、遺言執行者の選任を裁判所に申し立て、選任されれば、執行者により手続ができます。

そこで、最終的にはAさんを遺言執行者として申立を行いました。ここでも時間を費やすこととなり、結局、相続手続完了までに約半年かかってしまいました。
それでも、Aさんは次の様に仰ってくださいました。

「時間はかかったものの、遺言書がなかったらもっと大変だったでしょう。手続きすらできなかったかもしれない。わたしは今後も家に住み続けられるから、何とか書いてもらってよかった。」

◆参考◆

平成31年1月13日自筆証書遺言の方式が緩和されました!!

●緩和前の制度では…

これまで、自筆証書遺言を作成する場合には、全文を自書する必要がありました。遺言書部分はもちろんのこと、添付する財産目録についても、パソコンでの作成や、通帳のコピーの添付は認められていませんでした。ただでさえ全文の自書は大変ですし、特に、お年寄りや財産の多い方にとっては、相当な負担となっていました。


●緩和後の制度のメリット

今回の見直しで、以下の様に方式が緩和された為、作成時の負担が軽減されることとなりました。
「自筆証書遺言に、パソコンで作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようにする」
さらに、財産目録には署名押印をしなければならないので、自筆でない添付物でも偽造も防止できるようになります。

東京都 Oさん

この度は、妹の相続手続の節に、貴社の相談員・先生方のご尽力をいただき、
手続きもスムーズに運び、完了しましたこと、感謝いたしております。
本当にお世話になり、ありがとうございました。
これで私も気持ちが少し楽になれると思います。まずは、御礼まで。

事例 98死んだ我が子の相続手続

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Aさん

自分よりも子供が先に逝ってしまうなんて・・・とてもじゃないけれど、相続手続が手につきません。手伝ってもらえないでしょうか?

親より先に子が死亡した場合の相続権はどこにいくのでしょうか?

ご自身の子供の相続手続を行わなければならないほど、悲しい相続手続はありません。今回の依頼人Aさんは、息子のXさんを亡くされ、そのご相続のお手続きの相談で、センターにみえました。

Xさんは定年後に病気が見つかり、60歳過ぎの若さで亡くなりました。生涯独身でお子様はいませんでしたので、相続人は第二順位の直系尊属の父母となります。Xさんのお父様は既に亡くなっていましたが、お母様であるAさんがご健在でした。高齢なので、Xさんの妹Yさんにも同席していただき、Aさんにお会いすることとなりましたが、90歳を超えてなお、認知症を患うこともなく、都営住宅にお一人でお住まいになられていました。

さらに、自分よりも子に先立たれることは大変つらいことですが、Aさんは長男Xさんの死をしっかりと受け止めておいでです。遺言は遺されていませんでした。Yさんの同意のもと、相続手続を受託しました。

相続財産は返済を終えたばかりのマンション一室、預貯金、死亡保険金受取人にはYさんが指定された生命保険でした。相続税は相続財産が基礎控除額を超えた場合に申告が必要となりますが、生命保険金については相続人一人当たり500万円の非課税枠があります。Xさんの場合、相続人が一人の為、基礎控除額が3,600万円にしかなりません。

相続財産の不動産や預貯金に生命保険を加算すると、基礎控除額を上回ることとなりました。
Yさんから、「生命保険の非課税枠が適用されるのでは?」とご質問をいただきましたが、死亡保険金の受取人が相続人でない場合の適用はなく、葬儀費用等を差し引いても、基礎控除を超える為、相続税の申告が必要になると説明しました。
一方、一人暮らしであったXさんに同居の親族はいないものの、母Aさんは長らく都営住宅にお住まいで、ご自身や配偶者が所有する家屋に住んでいたことはなく、このマンションを売る予定もありません。
このような場合、相続税の申告において、「小規模宅地の特例」が適用され、土地の評価が減額されます。
結果として相続税の申告は必要なものの、相続税の負担は免れました。また、Xさんは亡くなる前、Yさんに預貯金の一部の公益法人への寄付を依頼していました。YさんはAさんと相談し、Xさんの遺志を実現されるということでした。

◆参考◆

●宅地等の評価額について
被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業又は居住の用に供されていた宅地等について、要件を満たせば、一定面積まで土地の評価額が減額される場合があります(小規模宅地等の特例)。被相続人の居住の用に供されていた宅地(自宅)については、相続により被相続人の配偶者が取得する場合、あるいは、被相続人と(一棟の建物に)同居していた親族が取得し申告期限まで保有している場合には特例の適用がありますが、これらの方がいない場合でも、取得した相続人が一定の要件を満たせば、特例が適用される場合があります。この特例には様々な細かい要件があり、また税制改正により取り扱いが変わることがあるので注意が必要です。

●生命保険の課税について
被相続人の死亡により受け取る生命保険契約の保険金等で、被相続人が保険料を負担したものは、みなし相続財産として相続税の対象となります。但し、相続人が受けた死亡保険金額については500万円×法定相続人の数まで非課税です。この場合、相続人ではない方が受け取った場合は非課税となりません。Yさんは相続人ではないので、保険金全額が課税対象となりました。 なお、相続や遺贈によって取得した財産を国や地方公共団体又は特定の公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄付した場合、その寄付した財産は相続税の対象としないという特例があります。

東京都 Sさん

今回相続の件でお世話様になり、ありがとうございました。
個人ではとても出来ない書類を揃えていただき、感謝しております。
勉強にもなりました。
また、相談することがありましたら連絡させていただきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

事例 97遺言書の必要性を痛感した夫の相続

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Aさん

遺言書作成を拒否し続けた夫が、ついに遺言書作成しないまま他界しました。どんな手続きから始めればいいか途方に暮れています・・・。

遺言書があれば遺産分割協議もスムーズに進みます

ご主人であるXさんの相続手続のご相談に来られたAさん。
ご夫婦にはお子さんが一人いらっしゃいましたが、結婚も子を持つこともなく、既に病気で亡くなっています。その後、Xさんが病気で入退院を繰り返すようになった際、Aさんはお子さんを病気で突然に亡くされたご経験から、Xさんに遺言を書いてほしいと何度もお願いしたそうですが、「遺言なんて縁起でもない!俺に早く死んでほしいのか!」と言われてしまい、それ以上話が出来ないまま、Xさんが亡くなられてしまったとのことでした。

Xさんの相続財産は、自宅不動産が主で、預貯金はあまり残されていませんでした。
相続人全員で遺産分割をしなければならない、と理解しつつも、Aさんは「自宅は大切な場所だし、今後の生活もある。売却をせず、自分名義にして守っていきたい」とお考えでした。手元に生活の資金も残すとなると、Aさんが法定相続分以上を相続する、という内容の遺産分割協議が必要になります。
Xさんのご両親は既に亡くなられており、相続人はAさんの他に、Xさんの兄弟姉妹5人ということでした。依頼を受けて戸籍を取寄せて確認すると、実は母親の違う姉(Yさん)がいたのですが、Yさんも既に亡くなっており、そのお子さん3人がXさんの相続人となることが判明。
Aさんは、相続人の多さに大変心配していらっしゃいました。

それでもなんとか皆様と連絡をとり、「ご自宅はAさんに」ということで協議がまとまりました。
ところが、分割協議書を作成し、皆様から押印をいただく段階になって、なかなか押印に応じてくれない相続人が一人…。
数か月が経過し、このままでは家庭裁判所に調停申立てをしなくては、と諦めかけていたところ、やっと押印に応じてくれることとなりました。
ほっとしたのも束の間、手続が進まないでいた間にXさんの弟のZさんが亡くなってしまい、Zさんの相続人3人も数次相続人として、押印が必要となりました。すっかり憔悴しきったAさんを励ましながら、最終的には、なんとかご自宅をAさん名義に変えることができました。
「主人が遺言書を書いてくれていたらこんなに大変な思いをしなくてよかったのに。」
というAさんの言葉が印象に残っています。

◆参考◆

●遺言書の必要性
お子様がいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合で、ご両親や直系尊属(第二順位の相続人)が既に亡くなっていると、相続人は、配偶者と故人の兄弟姉妹となります。さらに、その兄弟姉妹も亡くなっていると、その甥姪が第三順位の相続人となります。
遺言がなければ自宅不動産の名義変更にも、相続人全員による遺産分割協議が必要となりますが、分割内容が合意に至らない、押印に応じてくれない、相続人自体の所在が分からない等、多々リスクがあり、難航することも少なくありません。お子様がいらっしゃらない方には、遺言書の作成は検討に値することだと思います。

●民法(相続法)の大幅改正
民法のうち相続法の分野について大幅な改正が行われて久しいですが、その中で、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策として、「配偶者居住権」という権利が創設されたことは記憶にも新しいでしょう。
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利です。遺産分割における選択肢として、また被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
今回のAさんのように、配偶者が自宅不動産を取得することに相続人全員の合意が得られればいいのですが、預貯金を含めた金額面での合意が難しい場合に、配偶者居住権という権利で評価し遺産分割を行うという選択肢が増えることとなります。この配偶者の居住の権利については、令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められています。

事例 86異母兄弟との遺産分割協議

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Bさん

父が亡くなりました。相続人は自分と母親ですが、父は再婚で、前妻との間にも子供がいるようです。
どこに住んでいるかもわかりませんし、できれば連絡も取りたくありません。財産を渡すなんて以ての外です。

相続手続には、必ず相続人全員の協力が必要となります。

お父様が亡くなられたとのことで、息子であるBさんがご相談にいらっしゃいました。父XさんはBさんの母親であるAさんとは再婚で、前妻との間にも子供がいるらしいとのことでしたが、定かではなく、どこに住んでいるかも分かりません。
そんな状況で、相続手続をどのように始めればいいか教えてほしい、ということでした。

もし、前妻との間に子供がいれば、その人もXさんの相続人ということになります。相続手続には、相続人全員の協力が必要となる旨を説明し、戸籍と附票を取寄せ、相続人の確定を行いました。結果、前妻との間には、Bさんのお兄さんにあたるCさんという一人息子が、北海道にいることが判明しました。

次に、どのように連絡をとるべきか検討しました。Cさんとは全く面識のないBさんとAさんは、前妻とその子供に対して悪いイメージしか抱けないご様子で、出来れば自分たちは直接連絡を取りたくないとおっしゃいます。
しかし、遺産分割協議は、相続人間で話し合う必要があることをご理解いただき、まずは、Bさんから附票の住所にお手紙を出していただくことになりました。

後日、Cさんからお返事があり、遺産分割協議を重ねた結果、自宅の不動産などの遺産をBさんとAさんが取得することにCさんが同意されたため、遺産分割協議書を作成。
やり取りを重ねていく中で、Bさんには、自分の兄弟に会っておきたいという気持ちが強くなっていきました。そこで、直接Cさんに会って、遺産分割協議書へ署名・捺印、印鑑証明書の受け取ろうと、北海道へ出向くことにしたのです。

北海道から帰ってきたBさんは、大変すっきりした表情でいらっしゃいました。
Cさんは、父は自分が幼少時に亡くなったと聞かされていたらしく、生きていたことに驚き、わざわざ海を超えてBさんが北海道まで来てくれたことに恐縮し、道内の観光案内や、帰り際にお土産と往復の旅費まで渡してくれたそうです。
Bさんは、「父にそっくりだったCさんの横顔が忘れられない、本当に会いに行ってよかった」と何度も話してくださいました。
北海道に行く前、Bさんは「現在の遺産は離婚後に形成した財産。本当はびた一文も渡したくない」と話されていましたが、最終的には、直接会ったことでわだかまりがなくなったようでした。

会ったことのない相続人の間で協議をしなければならないケースは少なくありません。
相手の状況が全く分からない場合、どのような手段で連絡を取り合うのがよいか、大変難しいところです。実際にお会いいただくのが一番の近道かもしれません。

◆参考◆

●遺産分割の法定相続分
被相続人の子は第一順位として相続人となります。子には実子、養子、嫡出子、非嫡出子とありますが、いずれも子として相続人であり、法定相続分も同じです。前妻の子は後妻の子と法定相続分に差異はありません。相続財産が離婚後に形成されたものであったとしても、前妻の子の同意なくては、遺産分割をすることはできません。
このように、遺産分割には相続人全員の合意が必要となりますが、合意さえあれば法定相続分にとらわれず、持分を自由に決めることができます。全員が合意すれば、一人の相続人に全財産を取得し、残りの相続人は何も取得しないということも可能となります。

●疎遠な相続人がいる場合
行き来のない相続人がいる場合、戸籍の附票を取ることで住所は確認できますので、まずはその住所宛に手紙を出して連絡をとります。電話番号やメールアドレスは分からない為、返信が来るまで何度も手紙を出してみたり、実際に訪問してみたりと根気強く対応していくことが必要となる場合も生じます。
手紙を出しても宛先不明で戻ってくる場合等でも、所在不明として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てて、相続手続を進めることは可能です。

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