事例 123配偶者の守られるべき権利

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Aさん

主人が亡くなり、養女との関係に悩んでいます。

配偶者の権利を守る「配偶者居住権」をご存じですか?

配偶者の死後、住んでいた自宅を他の相続人に譲らねばならない…
といった状況になっても、令和2年4月1日施行の「配偶者居住権」という安心材料があります。

Aさんと夫Xさんは、夫婦二人で7年間、仲良く暮らしてきました。
お相手のXさんは64歳で初婚だったそうです。カルチャースクールで知り合い、ほどなくして結婚。
実は、Xさんには養女がいました。25年前に亡くなった妹の子であるBさんです。
彼女はすでに社会人で離れて暮らしていて、結婚に反対はしなかったものの、
やはり、突如現れたAさんとは距離を取っていたようです。

①配偶者の遺言書

そんなAさん夫婦に予期せぬことが起こりました。元気だったXさんが突然倒れてしまったのです。
病名は癌。それも、かなり進んでいたそうで、病床のXさんは、自分がもう長くはないと感じ、
遺言書を作成することにしました。
そして、1年後にXさんは亡くなりました。

②遺言書の内容と養女の想い

さて、遺言の内容を見てみると、Aさんが自宅不動産を引き継ぐ上、
今後の生活の為の預金も確保されており、Bさんが取得する財産よりも多くなっていました。
それでも、遺留分も考慮されているため、従わざるを得ません。
とはいえ、Bさんとしては、7年一緒に過ごしただけの妻よりも、
自分の方が少ないことに釈然としない気持ちだったようです。
あわや、Aさんが自宅に住み続けられない可能性も…。

そんな中、2週間経った頃にBさんがAさんを訪ねてきました。
Bさんは、いままでに養父Xさんからもらった手紙を読み返してみたようです。
それによれば、「Aさんと暮らせて幸せだ、とても大事にしてもらっている」
というようなことが書かれていたとのこと。

「男手ひとつで、自分を育ててくれた人が、一時でも夫婦として幸せに暮らしてきた…
いずれにせよ、そのことが再認識できたので、この遺言の内容を受け入れます」

その言葉に、Aさんは救われた気がしたそうです。
今では、AさんとBさんは”母娘”として、一緒に食事に行く仲だそうです。
自宅に住み続けながら、預貯金も相続できるようになりました。

晩年を配偶者と過ごした幸せな思いを遺言書に込める男性老人のイラスト

◆参考◆ 配偶者居住権とは?

●背景①

配偶者の一方(例えば夫)が亡くなった場合、他方の生存配偶者(妻)は、
やはり、住み慣れた自宅に住み続けることを希望する場合が多いと思われます。
一般的に、高齢の方の場合、配偶者に先立たれ、
そのうえ、新たな生活環境を強いることは、
結果として、精神的にも肉体的にも大きな負担となりかねません。

●背景②

しかし、法定相続分で遺産分割をすることとなった場合、
配偶者の権利や生活が十分に確保できない場合がありえます。
なぜなら、法定相続人が配偶者と子の場合、法定相続分が2分の1ずつの配偶者と子では、
相続財産の自宅不動産と預貯金が同じくらいの価値の場合、
法定相続分通りでは、配偶者は、自宅を相続すると
結果的に預貯金を相続できないことになってしまうからです。
そうすると、住む家は確保できても預貯金を確保できすに、
かえって、今後の生活が不安定になっしまう恐れがあるのです。

●配偶者居住権(令和2年4月1日施行)

こうした背景から、民法(相続法)改正で創設された「配偶者居住権」という権利は、
例えば、配偶者が住んでいた建物が、亡くなった配偶者の相続財産である場合、
その所有権を子が相続したとしても、配偶者居住権という権利を設定し、
そうすると、妻は終身又は一定期間、「無償」でその家に
住み続けることができるという権利です。
また、この権利は、登記をすることで第三者に権利主張できたり、
さらに、相続財産として評価される一方で、所有権よりも低く評価されるため
所有権を相続する場合に比べて、預貯金等をより多く相続することが可能となったりします。

  

  

  

【 配偶者居住権についての詳細は法務省のホームページでもご確認いただけます 】

事例 118自筆で書いた遺言書

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Aさん

父の自筆による遺言書が出てきたのですが、どうしたらいいでしょうか…?

自筆で書いた遺言書には注意が必要です

父親Xさんが自筆で書いた遺言書があるというAさんから相談がありました。
自筆による遺言書は、家庭裁判所に提出して検認を受けなければならず、
本来は、勝手に開封することはできません。
しかし、その遺言書は封がされておらず、Aさんは中を見てしまったようでした。

また、ご家庭のご事情を聞いてみたところ、Xさんは、Aさんのお母様Yさんとは籍を入れておらず、
内縁関係のままでしたが、実子のAさんと妹Bさんを認知し、共に暮らしていました。
Xさんの相続人は自分たち兄妹だけだと思っていたAさんでしたが、
遺言書には、Yさんと出会う前に離婚した前妻との間に生まれたCさんの名前がありました。
会ったことのない兄弟の存在を遺言書で初めて知り、対応に困って相談にお越しになったということです。
 

①自筆証書遺言の注意点

まず、今回の事例のように、封がされていないなどの理由で遺言書が有効でない場合は、
遺言書なしの相続手続と同様に、相続人全員で遺産分割協議が必要となります。
つまり、Aさんは会ったことのないCさんと協議をしなければなりません。
また、Xさんの相続財産は、預貯金の他はAさん親子が現在も住んでいる一戸建ての不動産で、
Aさんとしては、この自宅を何とか自分たちで相続したいという願いでした。
そして、実際の遺言書には、Aさん達の希望通り
「YさんとAさん及びBさんに不動産を相続させる」との記載がありました。
 

②自筆証書遺言の落とし穴

Xさんは、一緒に暮らしてきたAさん母子の今後の生活を案じ、
自宅を相続させたい気持ちで遺言を残されたのでしょう。
しかし、残念ながらこれでは登記ができません。
共有での不動産登記は可能ですが、3人の持分が示されていないからです。
しかも、Yさんは相続人ではないため「相続」ではなく「遺贈」に当たり、登記原因も異なります。
くわえて、預金に関しての記載がなかったことなど、
自筆で書いた遺言書は、作成が気軽である反面、その記載の仕方が明確でないと、
その意思を反映した相続を行うことはできないという落とし穴があるのです。
  

とはいえ、Cさんに対しては、離婚の際に母親に多額の財産分与したので相続させない、
という記載があるなど、Xさんの遺志は確認できる内容でした。
そこで、AさんはCさんに連絡を取り、Xさんの遺志を実現すべく、
時間をかけてでも理解を求めていくと強い決意を示され、
まずは遺産分割協議を開始するところから、お手続きを開始することになりました。

自筆で書いた遺言書には注意すべき点が多くあります。

◆参考◆

自筆証書遺言の保管

遺言書は、その方式として主に、遺言者が自書して作成する自筆証書遺言と、
公証役場で公証人が作成する公正証書遺言とがあります。
このうち、自筆証書遺言を法務局が保管するという制度が創設されました。
(法務局における遺言書の保管等に関する法律 令和2年7月10日施行)
  

制度の特徴

そして、今般、創設された制度では、法務局が自筆証書遺言を預かることで、
紛失や隠匿、改変等を防止し、その効果として家庭裁判所での検認を不要としており、
自筆証書遺言が持つ危険や煩雑さを回避できるといえます。
また、死後に相続人の一人が法務局に開示を請求すると、
他の相続人に通知されるという新しい制度も注目です。
とはいえ、公正証書での作成が安全・確実なのは変わらないでしょう。

                     ↓ ↓ ↓ ↓

自筆証書遺言書保管制度については、法務省の特設ページをご参照ください。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html 

 

 

事例 114終活のための遺言書作成協議

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Aさん

終活で遺言書を作成しようと思います。何から始めればいいですか?

終活をはじめるタイミングは人それぞれ。まずはご相談ください。

「そろそろ終活を始めようと考えているんです。」

久しぶりにご連絡をくださったAさん。
数年前に、奥様の相続手続をお手伝いさせていただいた方です。
当時、お仕事がいそがしく、家のことは全て奥様に任せきりだったAさん。
定年退職をされた翌年、奥様は急な病で倒れ、わずか2週間の闘病の末に旅立たれてしまったのです。
突然に一家の司令塔を失い、大いに困ったAさんが
当センターにいらっしゃり、お手続きのサポートをしたのでした。
奥様の遺産はご実家から相続した不動産の他、預貯金、株式や投資信託等多岐にわたりました。
そのため、全ての手続きを終えるのに半年近くを要し、
そうした経験からか、Aさんは自らの終活に際し、自分の相続準備を手伝ってほしいと思ったそうです。

まずは現状を把握して、できることから始めましょう

そもそも終活とは、自分の人生の終わりについて考えて準備する活動のことです。
遺された家族の負担を軽減するための活動である前に、
自分の残りの人生を充実させるために行う前向きな活動でもあります。
そのため、何から始めるべきという順番はありません。
まずは、自分が気にかけていること、できそうなことから始めてみましょう。

終活における遺言書作成

Aさんは、相続が突然起きたときの残された家族の苦労を身に染みて経験しています。
そして、遺言書があることは、手続きがスムーズに進められる大きな利点です。
また、奥様の財産のお手続きに時間を要したこともあり、まずは財産を整理することにしました。
財産一覧の作成、相続財産の把握、おおよその納税額を試算・・・
その上で、家族にどう相続させるのがいいのかを検討されました。

「自分が亡き後、子どもたちが遺産相続で揉めて欲しくない」
それが、Aさんの切なる想いでした。
そこで、長男長女を実家に招集し、テーブルに財産一覧と試算表を広げ、
 「遺言書作成のための会議」をすることにしたのです。
議長はもちろんAさんです。まずは自身の思いを子供達に伝え、
次に、それぞれの言い分を聞き、時間をかけて、
全員が納得するように取り纏められたのです。
そして、その協議通りの遺言書を作成されました。
「せっかく遺言書を作っても、内容が相続人同士で納得ができるものでなかったら、しこりは残ると思う。
自分は全員の思いを酌んだ遺言書を作りたかった。今後も議長健在の限り、状況が変わればまた『協議』します」
さながら、それは「主役(被相続人)ありの遺産分割協議」のようでした。

◆参考◆

●遺言書作成時の注意

相続(争族)対策として有効といわれる「遺言」ですが、
「遺言書があれば万全」とも言い切れません。
むしろ、独り善がりの遺言ではトラブルの原因になりかねませんし、
内容によっては、遺志通りに実現されない恐れもあります。
今回のケースのように、作成のための会議を行えずとも、
可能であれば、財産を受ける方や遺言執行者として指定した方に、
事前に説明し了承を得ておくことが望まれます。

●自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言とは、自筆で書く遺言書のことです。
これまでは、手軽に作成できる反面、自宅で保管するため、
紛失したり、隠匿・破棄・改ざん等されたりする恐れがありましたが、
2020年7月からは、これを法務局で保管してくれる制度が始まります。
この新しい制度により、様々な懸念事項を未然に防ぐことが可能となりますが
あくまで保管が目的で、内容についての精査はされません。
そのため、遺言書を実現可能で不備のないものを作成するには
専門家のアドバイスに基づいた公正証書遺言(公証役場で作成する遺言書)を
検討されることが望ましいでしょう。

◆自筆証書遺言保管制度に関しては、法務省の専用ページをご参照ください◆

お困りの際は、いつでも当センターにご相談ください。
遺言作成など、生前対策のご相談も承ります。


終活は自分の人生を振り返り、これからの人生をより豊かにするための活動です。その後、遺言作成をお考えの際には、当センターで発売中の『遺言のススメ』をガイドとしてご活用ください。

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事例 112義父名義の土地を取得することはできるのか。

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Aさん

義父名義の土地を自分の名義にすることはできるでしょうか?

配偶者名義と思い込んでいた土地が、そうではなかったという例は少なくありません。

「義父名義の土地があるんです。主人の土地だと思っていたのに・・・」
3年前にご主人のXさんを亡くされたAさんのご相談です。
おふたりの間に子供はおらず、Xさんのご両親はご健在。
そのため、相続人は配偶者のAさん、義父、義母の3名でした。
Xさんの死後すぐに、預貯金の名義変更や生命保険金の請求は済ませていました。
ところが、Xさん所有の不動産の名義変更を失念していたそうです。

誰名義の土地かを要確認

というのも、現在Aさんが住む自宅は、土地建物はご主人の所有、
隣接する貸家の土地建物は義父Bさんの所有、と聞いていたからとのこと。
そこで、登記簿を確認することになりました。
すると、それらの土地は、一筆で義父Bさんの名義となっていたのです。
Aさんはこの事実に驚き「自宅の土地はどうなるのか」と心配そうでした。

義父名義の土地をどうすればいいのか

自宅の土地について、今後のことを考えたいAさん。
義父名義の土地なので、Bさんが亡くなれば、
その相続人は義母と義兄(Xさんの兄)となり、Aさんに土地の相続権はありません。
つまり、貸家の土地と一体となったままでは、
義母か義兄が相続した土地上に、Aさん所有の自宅がある状態になってしまいます。
それでは、今後、ご主人の親族に負担をかけずにするにはどうしたらいいのか?
親族も含めて、専門家と相談を重ね、3つの手続きをすることとなりました。

①Xさんの相続については、Aさん・義父B・義母の遺産分割協議により、
 Xさん所有の自宅建物はAさんが相続するよう相続登記を行う。
②義父名義の土地のうち、自宅部分と貸家部分が別々の土地になるよう、
 土地の分筆登記を行う。
③Bさんが「Aさん所有の自宅の土地はAさんへ遺贈する」、
 「貸家の土地と建物は長男(義兄)へ相続させる」という内容で、公正証書遺言を作成する。

それにより、Bさんが亡くなった際は公正証書遺言を用いて、
Aさんが自宅の土地を、義兄が貸家を、それぞれ取得することができるようになります。
こうして、一連の手続きが済み、Bさんからも感謝のお言葉をいただきました。
「今回の手続きで、自分自身の相続についても備えができ、心が軽くなりましたよ」

義父名義の土地を今後に備えて分けられるように最善を尽くした。

◆参考◆

亡くなった配偶者の親族との相続手続

●子供のいないご夫婦は遺言書を

まず、お子様がいないご夫婦は、公正証書で遺言書を遺されることをお勧めします。
なぜなら、ご主人が亡くなった場合、ご主人のご両親がお一人でもご存命なら、
配偶者とその方が相続人となり、遺言書がない場合、
相続人間での遺産分割協議が必要となります。
そのことから、義父や義母が高齢で遺産分割協議ができなかったり、
ご両親やその祖父母(直系尊属)が既に亡くなっていると、
さらに、ご主人の兄弟姉妹(先に死亡している場合は甥姪)との協議が必要となったりします。
こうして、ご苦労されるケースが多くみられるため、遺言作成での対策をおすすめします。

先々を考えて、配偶者やその子どもが疎遠な親族とのやり取りに困らないためには、遺言作成の対策が最適。

●先々を考えた取り組み

親が先に亡くなれば、親の土地を子が相続するため問題は生じにくいですが、
今回のように先に子が亡くなってしまうと、より複雑なことになってきます。
そうすると、Aさんのように、ご主人のご両親にとっては法定相続人とならず、
他の親族に対しても弱い立場となる方も少なくありません。
だとすると、できればXさんがご存命のうちに、Bさんから生前贈与を受けておく、
または、Xさんに相続させる旨の遺言書を書いてもらう、
すなわち、予備的遺言として、XさんがBさんよりも先に亡くなった場合は
Aさんに遺贈するという内容を盛り込む、等の取り組みがあれば良かったのかもしれません。

お困りの際は、いつでも当センターにご相談ください。

養子縁組と遺贈ではどちらがいいでしょうか?

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Aさん

養子縁組をしていた私の子供Bが、亡くなった姉Aの相続人です。財産を受けるにあたり、相続と遺贈のどちらがよかったんでしょうか?

相続人の数や相続財産によって、様々な選択肢が検討できます。

お姉様のXさんを亡くされたAさんよりご相談をいただきました。
Xさんにはお子様がいらっしゃいません。ご兄弟は兄弟姉妹あわせて7名。
また、皆様、アパート兼自宅や多くの金融資産をお持ちです。
ご面談の際には、Aさんのお子様Bさんが同席されました。
実は、BさんはXさんと昨年養子縁組をしていました。
当初は、お子様がいらっしゃらないことから、相続対策として、
Aさんを受遺者とした遺言書を作成していたそうです。
それを撤回し、我が子同然に可愛がっていたBさんを養子にしたということでした。

養子縁組をした場合

養子も実子と同じく、第一順位の相続人となり、
そのため、Xさんの相続人はBさん一人となります。
相続人が一人の場合、基礎控除額は3600万円(3000万+600万×法定相続人数)と低く、
Xさんがお持ちのアパート兼自宅や多額の金融資産を加えると、
Bさんの相続税の負担は大きいものとなってしまいます。
そこで、アパート兼自宅がある土地や駐車場は、諸要素を考慮して、
できるだけ低額になるよう評価を行い、少しでも相続税の負担が少なくなるよう申告しました。

遺言を遺した場合

ところで、お子様がいらっしゃらない方には、養子縁組の他に遺言を遺すという相続対策もあります。

仮に、Bさんに遺贈するという遺言書があった場合、
Xさんは7人兄弟で、その内、亡くなった方もいるようですから、
法定相続人は10人近くになりそうです。
相続税の計算における基礎控除額は、法定相続人が多いほど高くなるため、
Bさんはその恩恵を受けて、相続税額が2割増しにはなるものの、
相続税の負担が大幅に軽減された可能性があります。

もっとも、養子縁組をして相続人が一人という場合、
様々な手続きがスムースに行くというメリットがあります。
また、今回のケースのように、XさんがBさんを我が子のように可愛がっていた事実からすれば、
Xさんが養子縁組を選択されたことはとても意味があったことだと思います。

養子縁組をしたことで、相続人が一人になったことがわかる画像

◆参考◆

生前対策における養子縁組と遺贈

●養子縁組

子供のいない方が養子縁組をした場合、その養子は、嫡出子と同じ身分を取得し相続権を持つことになり、
第二順位の親や第三順位の兄弟姉妹等は相続人にはなりません。
子供がいない方にとって、兄弟姉妹や 甥姪との煩雑な相続手続を回避する為に、
養子縁組は相続対策として有用な手段です。
もっとも、養子縁組をすることにより、相続だけでなく扶養についても権利義務関係を生じさせますし、
原則、養親の姓に変わりますので、相続以外の点についても考慮が必要です。

●遺贈

相続税は相続財産が基礎控除額を超えた場合に申告が必要となりますが、
この基礎控除額は法定相続人の数 によって算出します。
法定相続人が多いほど基礎控除額が高くなり、相続税の負担が軽減されます。
今回のケースで、養子縁組をせずBさんにすべて遺贈するという遺言をXさんが遺していた場合でも、
Bさんは養子縁組した場合と同様にすべての財産を取得することができました。
遺留分侵害請求の心配もありません。
そして養子縁組がなければ、法定相続人は兄弟姉妹や甥姪で10人近くになったようですから、
Bさんは相続税の負担において、その恩恵を受けることができました。

事例 99自筆証書遺言を書いてもらいました

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Aさん

夫の自筆証書遺言があるのですが、震える手でなんとか書いた、ようやく読めるような状態のものです。相続手続に使うことはできますか?

自筆証書遺言は検認手続きが必須

Aさんから、ご主人のXさんが亡くなったと、ご相談をいただきました。
Aさんご夫婦には、お子様はいらっしゃいません。被相続人に子や孫がいない場合、相続人は直系尊属(父や母)となりますが、父や母、祖父母が既に亡くなっていらっしゃれば、相続人は兄弟姉妹になります。
さらに、兄弟姉妹で既に亡くなっている方があれば、その子(甥姪)が相続人となります。Xさんのご兄弟姉妹はほとんど亡くなっていらっしゃるので、相続人は甥姪含めて16人です。すなわち、相続手続に当たっては、この全員で遺産分割をしなければなりません。Xさんの相続財産はご自宅不動産と預金です。

「これがあるのですが…」Aさんはファイルから紙を何枚か出されました。

自筆証書遺言の注意点①

見ると、震えた字で「ゆいごんしょ」と書いてあります。
Xさんは認知症等を患ってはいませんでした。ところが、手が震えて、字がまともに書けない状態でした。そこで、練習を重ねて書き、何とか読むことができる遺言書が何枚かありました。
X さんの遺言書は「わたしのざいさんをAさんにゆずる」という内容のものでした。
ただ、そのうちのほどんどが形式不備でありました。自筆証書遺言は、日付や署名、押印が必須となるのです。そのうえ、自筆で書かれた遺言書は検認手続きを経ないと相続手続に使うことができません。しかも、検認には相続人確定の為の戸籍を取得する必要があるのです。

自筆証書遺言の注意点②

幸い、日付も署名も押印もすべて揃っているものが1枚ありました。
早速、相続人全員の戸籍を取得して、家庭裁判所での検認手続きに入りました。今回は相続人が多く、戸籍取得に時間はかかりましたが、無事に検認に入ることができました。
しかし、検認が終わり、いざ手続きに入ろうとする段階になって、もう一つ必要な手続きがあると判明。
司法書士によると、「ゆずる」という文言だと「遺贈」と解されるとのこと。そのため、登記を行うには相続人全員の関与が必要だというのです。この場合、遺言執行者の選任を裁判所に申し立て、選任されれば、執行者により手続ができます。

そこで、最終的にはAさんを遺言執行者として申立を行いました。ここでも時間を費やすこととなり、結局、相続手続完了までに約半年かかってしまいました。
それでも、Aさんは次の様に仰ってくださいました。

「時間はかかったものの、遺言書がなかったらもっと大変だったでしょう。手続きすらできなかったかもしれない。わたしは今後も家に住み続けられるから、何とか書いてもらってよかった。」

◆参考◆

平成31年1月13日自筆証書遺言の方式が緩和されました!!

●緩和前の制度では…

これまで、自筆証書遺言を作成する場合には、全文を自書する必要がありました。遺言書部分はもちろんのこと、添付する財産目録についても、パソコンでの作成や、通帳のコピーの添付は認められていませんでした。ただでさえ全文の自書は大変ですし、特に、お年寄りや財産の多い方にとっては、相当な負担となっていました。


●緩和後の制度のメリット

今回の見直しで、以下の様に方式が緩和された為、作成時の負担が軽減されることとなりました。
「自筆証書遺言に、パソコンで作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書等を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようにする」
さらに、財産目録には署名押印をしなければならないので、自筆でない添付物でも偽造も防止できるようになります。

事例 97遺言書の必要性を痛感した夫の相続

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Aさん

遺言書作成を拒否し続けた夫が、ついに遺言書作成しないまま他界しました。どんな手続きから始めればいいか途方に暮れています・・・。

遺言書があれば遺産分割協議もスムーズに進みます

ご主人であるXさんの相続手続のご相談に来られたAさん。
ご夫婦にはお子さんが一人いらっしゃいましたが、結婚も子を持つこともなく、既に病気で亡くなっています。その後、Xさんが病気で入退院を繰り返すようになった際、Aさんはお子さんを病気で突然に亡くされたご経験から、Xさんに遺言を書いてほしいと何度もお願いしたそうですが、「遺言なんて縁起でもない!俺に早く死んでほしいのか!」と言われてしまい、それ以上話が出来ないまま、Xさんが亡くなられてしまったとのことでした。

Xさんの相続財産は、自宅不動産が主で、預貯金はあまり残されていませんでした。
相続人全員で遺産分割をしなければならない、と理解しつつも、Aさんは「自宅は大切な場所だし、今後の生活もある。売却をせず、自分名義にして守っていきたい」とお考えでした。手元に生活の資金も残すとなると、Aさんが法定相続分以上を相続する、という内容の遺産分割協議が必要になります。
Xさんのご両親は既に亡くなられており、相続人はAさんの他に、Xさんの兄弟姉妹5人ということでした。依頼を受けて戸籍を取寄せて確認すると、実は母親の違う姉(Yさん)がいたのですが、Yさんも既に亡くなっており、そのお子さん3人がXさんの相続人となることが判明。
Aさんは、相続人の多さに大変心配していらっしゃいました。

それでもなんとか皆様と連絡をとり、「ご自宅はAさんに」ということで協議がまとまりました。
ところが、分割協議書を作成し、皆様から押印をいただく段階になって、なかなか押印に応じてくれない相続人が一人…。
数か月が経過し、このままでは家庭裁判所に調停申立てをしなくては、と諦めかけていたところ、やっと押印に応じてくれることとなりました。
ほっとしたのも束の間、手続が進まないでいた間にXさんの弟のZさんが亡くなってしまい、Zさんの相続人3人も数次相続人として、押印が必要となりました。すっかり憔悴しきったAさんを励ましながら、最終的には、なんとかご自宅をAさん名義に変えることができました。
「主人が遺言書を書いてくれていたらこんなに大変な思いをしなくてよかったのに。」
というAさんの言葉が印象に残っています。

◆参考◆

●遺言書の必要性
お子様がいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合で、ご両親や直系尊属(第二順位の相続人)が既に亡くなっていると、相続人は、配偶者と故人の兄弟姉妹となります。さらに、その兄弟姉妹も亡くなっていると、その甥姪が第三順位の相続人となります。
遺言がなければ自宅不動産の名義変更にも、相続人全員による遺産分割協議が必要となりますが、分割内容が合意に至らない、押印に応じてくれない、相続人自体の所在が分からない等、多々リスクがあり、難航することも少なくありません。お子様がいらっしゃらない方には、遺言書の作成は検討に値することだと思います。

●民法(相続法)の大幅改正
民法のうち相続法の分野について大幅な改正が行われて久しいですが、その中で、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策として、「配偶者居住権」という権利が創設されたことは記憶にも新しいでしょう。
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利です。遺産分割における選択肢として、また被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
今回のAさんのように、配偶者が自宅不動産を取得することに相続人全員の合意が得られればいいのですが、預貯金を含めた金額面での合意が難しい場合に、配偶者居住権という権利で評価し遺産分割を行うという選択肢が増えることとなります。この配偶者の居住の権利については、令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められています。

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