事例 110きょうだい間の法定相続分

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Aさん

助け合って生活していた姉の相続で、法定相続分しか受け取れませんでした。

法定相続分以外に相続する場合、きょうだいの合意が必要です。

ご高齢の姉Xさんと妹Aさんは、ご結婚されることなく、お二人で一緒に暮らしていました。
もともとお母様を介護しながら一緒に暮らしていたお二人。
お母様が亡くなられた後は、二人でそのまま暮らしていたそうです。
年金だけでは生活できない為、姉Xさんが外で働くことで生計を立てていました。
代わりに、妹Aさんは家事を担当していたといいます。
そんな中、Xさんが交通事故で亡くなったと、途方にくれるAさんからご相談をいただきました。
「他の兄弟と法定相続分で分けるのは納得できません。」
Aさんはそう思っておいででした。

他の兄弟の主張

Xさんのご相続人は、妹のAさんの他に2人いました。
兄のBさん、既に他界した兄Cさんの子である甥Dさんです。
Bさんとは、何十年も交流がなく住所も分かりません。そのため、お母様の死も伝えられていませんでした。
一方、甥のDさんとは、連絡が取れる程度のお付き合いということでした。

Xさんは、妹Aさんとの老後のことも考え、定期預金をしていました。
ご自宅は都営住宅で、相続財産はその預貯金となります。
今のままでは 生活費もままならないAさん。
一日でも早く相続手続をして、預金の解約手続を行わなくては、暮らしていけません。
そこで、センターでBさんの住所を調べ、Aさんから手紙を出してもらうことになりました。
Aさんとしては、全額受け取りたいと希望しました。
Xさんがふたりの老後に、と備えて蓄えてくれていた預貯金に対して、当然の主張です。
しかし、Bさんからの回答は、法定相続分の3分の1での分割しか認めないというものでした。

難航する分割協議

その後、Aさんは何度か交渉を試みました。
ずっと一緒に助け合って生活してきたのは自分だ、とAさんは訴えました。
それでも、答えは変わらず、交渉を重ねる度に、Bさんとの話し合いはこじれてしまったようです。
DさんはAさんに同情的でした。
けれども、結局、Bさんに押し切られる形で、遺産分割協議が成立しました。
きっちり法定相続分で、Aさん、Bさん、Dさん3分の1ずつという内容でした。

その後、Aさんは高齢ながらもご自身で働かなければならなくなりました。
頼りにしていた預貯金も少なくなり、相続手続が完了しても、なお途方にくれる状況でした。
ただ、ひとつだけ希望が残りました。
今回の相続により、甥のDさんと交流が深まったことです。
Dさんは、何かとAさんを気にかけ、サポートしてくれているといいます。
Aさんにとっては、頼りにできる親族ができたことが何よりの救いとなったのです。

子どもがいない2人以上の兄弟姉妹間の相続では、法定相続分より多くの配分を受け取りたい場合に、注意が必要です。

◆参考◆

子供がいない兄弟姉妹の相続

●法定相続分の割合

お子様がいない高齢の兄弟姉妹が、助け合いながら一緒に暮らしているご家庭を見かけます。
その場合、ご両親(直系尊属)は既に亡くなっていることが多く考えられます。
そんななか、どちらかが亡くなると、兄弟姉妹が相続人となります。
そのご兄弟が亡くなっていれば甥姪が相続人です。
もし、生計を一にして一緒に暮らしていた兄弟姉妹がいたとしても、法定相続分は、離れて住んでいる他の兄弟姉妹と変わることはありません。
遺産の配分を多く得るには、遺産分割協議において他の兄弟姉妹の合意を得なければならないのです。
今回の場合、Xさんがすべての財産をAさんにという遺言書を書いていれば、Bさんの合意を取り付ける必要もなく、Aさんの心労はいくらか軽減できたことでしょう。

●預貯金の払戻し制度の創設

今般の民法改正により、相続人の当面の必要な生活費について、
遺産分割前でも払戻ができる制度が創設されました。(2019年7月1日施行)
預金の解約には相続人全員の合意が必要ですが、事情により難しい場合には、
当面の生活費や葬儀費用の支払いのために預金の一部払い戻しが可能となります。
この制度を使えば、Aさんは協議を急ぐことなく、時間をかけてBさんとの話し合いができたかもしれません。

お困りの際は、いつでも当センターにご相談ください。

事例 109配偶者として自宅を相続したい

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Aさん

夫が亡くなりました。二人で住んでいた自宅を相続したいですが、夫の連れ子と揉めずに遺産分割協議ができるか不安です。

配偶者居住権をご存知ですか?

「配偶者が自宅に住み続けることはできますか?」
Xさんが亡くなったとして、妻であるAさんがご相談に見えました。
Aさんは、ご主人のXさんと二人暮らしです。また、お二人の間にお子さんはいらっしゃいません。
しかし、ご主人は再婚でした。死別した前妻の連れ子であるBさんを養女にしています。
そのため、相続人はAさんと養女のBさんとなります。AさんがXさんと結婚した時には、Bさんはすでに独立していました。現在もやり取りはありますが、同居をしたことはないとのこと。
「もし遺産分割協議をするとなったら、ちゃんとできるか不安で…」
と、ご不安な様子のAさん。
自筆で書かれたXさんの遺言書がありますが、開封してみないことにはなんともわからない状況です。

自筆証書遺言は検認を。

まずは、家庭裁判所で遺言の検認をすませることになりました。
AさんとBさんが内容を確認すると、「預金を2人で半分ずつ分けるように」という記載のみでした。
ところが、実際には、遺言で指定してある預金以外にも財産があったのです。
ご自宅、他の金融機関の預金、個人年金の受給の権利、過去に購入していた上場株式、支払済の終身保険の保険金などなどです。
預金以外の財産が判明したとなれば、Bさんとの遺産分割協議が必要となります。
「預金の額が少ないから、自宅を売却する必要があるかも…」
ますます不安そうになるAさんでした。

これらの財産をもとに、おふたりは納得がいくまで話し合いをしたそうです。
Bさんとの遺産分割協議が上手くいかなければ、自宅を売却して資金を確保が必要です。
そうなれば、Aさんは住み慣れた自宅にとどまることが出来なくなってしまいます。

実際は、揉めることなく、自宅はAさんだけが相続し、その他の資産を遺産分割することでまとまりました。
「自宅は売却したくないと思っていたので良かった」
と、Aさんは安堵されていました。
今回のようなケースで注目されているのが、民法改正により新設された「配偶者居住権」の制度です。
残された配偶者が、住み慣れた自宅を売却せずに済む選択肢の一つとして役立つ制度になりそうです。

相続人は配偶者(現在の妻)と、前妻の連れ子(養子縁組済み)の2名

◆参考◆

注意したい自宅不動産の相続

●相続における自宅不動産

今回のケースで、Xさんは前もって自筆証書遺言を残していました。
しかし、内容は預金のことだけで、自宅不動産のことは書かれていませんでした。
おそらく、今住んでいるAさんが自宅を相続することは当然としてお考えだったのでしょう。
もし、「不動産をAさんに」という旨があれば、Aさんは戸惑わずに自宅を相続することができました。
そして、Bさんは遺留分侵害額をAさんに請求することで、Aさんはこれまでどおり、住み慣れた家で安心して暮らすことができたのです。
遺言を書く際には、すべての財産を網羅しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができるのです。

●配偶者居住権という選択肢

配偶者の死亡後、残された多くの方が、住み慣れた自宅で居住を続けることを希望します。
特に高齢者であれば、なおさら、新たな環境で生活を立ちあげることは容易ではありません。
こうした配偶者の居住する権利を保護すべく、民法改正により「配偶者居住権」という権利が創設されました。

この改正により、以下のことができるようになりました。

 ・配偶者は遺産分割で配偶者居住権を取得することにより、
  終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるものとする
 (※配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に限る)
 ・被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできるものとする

これは、法定相続分で遺産分割をする際に、
自宅不動産以外の財産(預貯金等)が少ない場合などの選択肢となり得ます。

配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金等を十分に相続できないことになる為、
住む場所は確保できても、今後の生活は不安定になるおそれがあります。
そこで、配偶者が自宅の所有権を取得せずに、この配偶者居住権を取得すれば、
終身又は一定期間住み続けることができます。
また、配偶者居住権は所有権よりも低く評価されることになるため、多くの預貯金を相続できることになります。
(この配偶者居住権は2020年4月1日より施行されています。)

参考サイト:法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」

事例 107対策をせず、押し付け合いになった遺産。

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Aさん

実家はたくさんの土地や建物、田畑を持つ旧家です。
父が亡くなり、それらの遺産を三姉妹でどう相続すればいいのやら…。

生前対策を考えておきたい財産はありませんか?

今回は、生前に対策をしなかったために大変な思いをした事例です。
お父様が亡くなったとのことで相続人全員が揃ってご相談にいらっしゃいました。
長女Aさん、二女Bさん、三女Cさんの三姉妹です。

ご実家は代々続く旧家とのことです。三姉妹は皆嫁ぎ、現在は誰も実家を継ぐ人がいないとのことでした。
「旧家にとって『跡取り』はとても重要なんです。」と口々に思いつめたようにおっしゃいます。
三姉妹の結婚話が持ち上がるたびに、そのことが原因で揉めたこともあったようです。
その後、跡取り問題は封印され、3人とも嫁ぎ、年月が流れ
そして、このたび、お父様がお亡くなりになられたとのことでした。

「これから先、実家の広い敷地やお墓を誰が引継ぎ、どう管理すればいいのか…」
聞けば、実家には古い母屋や離れ、何十筆もの田畑も所有しているそうです。三姉妹は途方にくれておられました。しかも、広大な宅地は高額な評価額となり、相続税も納めなければなりません。

「いっそ相続放棄をしてしまいたい。」
との思いも過ります。しかし、親戚の叔父叔母の手前、そんな無責任な事が許されるはずがないとのこと。すると、事態はそれぞれの配偶者を巻き込んでの分割協議へ発展。
「遺産の取り合い」ではなく「押し付け合い」となったのです。
仲の良かった三姉妹の間には、話し合いを重ねるごとに不穏な空気が漂うように…。
ついには「長女VS二女&三女」という関係になってしまいました。
最終的には、長女のAさんが全てを相続する形で協議が成立。親戚の叔父叔母からの叱責や、相続税の申告期限も迫る中での苦渋の決断でした。

◆参考◆

押し付け合いになる前に…

その後、Aさんから聞いたお話です。
「相続税は相続した預金で何とか支払うことができました。しかし、これから先はどうしたらいいか…。」
このままでは、土地や建物の固定資産税や土地の管理費用を払い続けることになります。
「とても預金では賄えません。将来的には土地を切り売りするしかありません。そうなればきっと妹達や親戚は私を責めるでしょう。幼い頃から三姉妹平等に育ってきました。でも、お墓も私が守り続けなければならない。まさか、こんなときだけ長女の責任を負わされるなんて…。」
と、Aさんは悲しそうにおっしゃっていました。
ときに、先祖代々から受け継いできた「家」が子孫を苦しめる事になるのです。
現代では価値観の多様化から、「誰も相続したくない」という相続問題も増えそうです。
押し付け合いになる前に、生前対策を考えておきたいですね。

 (例)・誰も住んでいない実家
    ・地方にある山林、原野の処遇
    ・祭祀財産の承継  など

●不要不動産の対策

今回の事案のように、受け継いできた実家不動産だけでなく、将来の開発を期待して買った山林や原野 などの不要不動産についても、遺産分割協議の際に、相続を押し付け合うということがあります。相続により、行ったこともない空地の固定資産税を負担することになりかねないからです。そのような不動産をお持ちの場合は、相続による混乱が生じるのを防ぐため、前もって売却先を探しておくなどの生前対策が望まれます。

●祭祀財産による対策

お墓や仏壇や位牌等を「祭祀財産」といいます。相続が開始すると、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人に承継されるのが原則ですが、「祭祀財産」は第一に被相続人の指定に従って、次に慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に承継されることと民法で定められています。

 実際の遺産分割協議では、祭祀財産を承継する人が「お墓を守っていくから」という理由で実家を相続したり、財産を多く相続したりすることがあるようです。これらの祭祀財産は「財産」というより「先祖を敬う気持ち」によるところもあり、受け継ぐ人にとって大きな負担となる事もあります。今回の事案のように押し付けあう「争続」が発生しないよう、生前の話し合いが重要です。

事例 105相続人以外へ財産を贈与できますか?

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Aさん

叔父の相続財産を、相続人以外の方に受け取ってほしいのです。どうしたらいいでしょうか?

民法改正により、相続人以外の親族へ遺産分配ができるようになりました。

「相続人以外の方に、相続財産を受け取ってもらえますか?」

Aさんが叔父の相続手続きの相談でいらっしゃいました。
叔父のXさんは生涯独身で5人兄弟の末っ子でした。また、既にご兄弟も全員お亡くなりになっているそうです。
そのため、相続人はAさんを含む甥姪7人とのことでした。
そして、Aさんが代表として動くことになったため、相談に見えたということでした。その理由は、一番お若いことと法定相続分が最も多いことだそうです。

お話をするうちに、Aさんが冒頭の質問をされました。
なんでも、相続人以外に、ぜひ財産を受け取ってほしい方がいるそうで…。

①Xさんのごきょうだい

先述の通り、叔父Xさんのごきょうだいは既に他界していますが、少々複雑だったようです。
まず、いわゆる異母兄弟が3人(長女Pさん、長男Qさん、次男Yさん)。そして、両親が同じZさん(Aさんのお母様)でした。ただ、母親が違うとはいえ、長女Pさんは弟Xさんを可愛がっていたそうです。
それは、Pさんの嫁ぎ先の北海道にXさんも居を移したことからも明らかでした。そして、Pさん亡き後も、その長男Rさん家族がXさんの面倒をみていたというのです。

②真の貢献者Bさん

Aさんがお葬式のために北海道に行くと、Rさんは10年前既に他界していました。
さらに、奥さんのBさんはご主人が亡き後、義理の母であるPさんを看取ったそうです。
その後、夫の叔父にあたる独居老人であったXさんのお世話を、子供たちと一緒にしてくれていたそうです。
それほど尽くしてくれたにもかかわらず、相続財産を受け取ることはできません。BさんもRさんのお子様もXさんの相続人とはならないからです。それは、RさんがXさんより先に死亡したためです。Aさんはそのときに初めて、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪一代限り、と知りました。

「なんとしてもBさんご家族に相続財産を受け取ってほしい。真の貢献者は彼女です。財産を受け取る権利があります!」

そう思ったAさんは、東奔西走の末、当センターに辿り着いたということでした。

まず、Aさんは税理士に、Bさんに贈与税の負担のかからない方法を確認しました。そして、Xさんの相続人(Aさんの従兄弟たち)一人一人に掛け合いました。最後に、Cさんに一役買っていただくことで分割協議がまとまりました。相続人がそれぞれ相続分から出し合い、Cさんの相続分に500万円上乗せするという内容です。
その後、Cさんから1年に100万円ずつ、計5年間、Bさんに贈与してもらうことになりました。
亡Rさんの妹Cさんは、北海道にお住まいでBさんと親交がある方だったのです。

相続人以外の貢献者は法定相続人の配偶者とその子供達

◆参考◆

●相続人以外の貢献者

「なによりその努力を皆さんが認めてくださったことが嬉しい」
何の見返りも期待せず介護をしていたBさん親子も、大変喜ばれました。
故人のお世話をしてくれていた人にこそ遺産を渡したいというAさんの優しい熱意。それが、他の相続人の心を動かした事案でした。

●「特別寄与料」の請求

民法改正により、相続人の親族(相続人以外の者)の貢献を考慮するための方策の条文が追加されました。
(2019年7月1日施行)
これまで、多大な貢献をした場合でも、相続人以外の者は遺産の分配を受けられませんでした。
それでは実質的公平に反するため、今般の民法相続法の改正がなされました。
相続人以外の者であっても、一定の貢献をした場合には相続人に対して「特別寄与料」を請求できることとなりました。(ただし相続人の親族に限る)

参考サイト:法務省(相続法の改正)

●今回のケース

今回は贈与の形で、本来は遺産を受け取ることのできないBさんへの優しさが実ったケースでした。
今後は、この法律改正が施行されたため、次のような場合の請求が可能となります。

 例)長男の死亡後、その妻が義父の介護をしており、その義父が亡くなった場合。

こうした場合に、長男の兄弟姉妹に対して、妻が直接金銭の請求をすることができるようになりました。
(相続人以外の被相続人の親族が無償で療養介護等を行っていた場合に限る)

事例 104遺産分割協議が出来ず、生活費が心配です。

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Bさん

兄弟と連絡が取れず、父の相続で遺産分割協議ができないため、高齢の母が生活費に困っています・・・。

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。

Xさんが急死されたということで、奥様Aさんと長男Bさんがご相談にみえました。
二男のCさんが三人目の相続人です。しかし、ご兄弟間の折り合いが悪く、かれこれ20年以上音信不通状態。
いつしか、居所も分からなくなり、葬儀の連絡すらできていないとのことでした。
また、ご夫婦間では全ての財産をXさんが管理していました。そして、Aさんは毎月の生活費をXさんから受け取るようにしていました。
そのため、当面の生活費だけでも…と、取り急ぎ預金をおろしに銀行に行ったAさん。
ところが、「相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要」と言われてしまったそうです。
Aさんは途方に暮れていらっしゃいました。
「相続人全員のと言われても、二男の行方も分からないのに…」

①相続人の居所を調査

預貯金は相続財産として遺産分割の対象となります。
そのため、預金を下ろすには遺産分割協議が必要不可欠です。
そして、それは銀行の案内通り、相続人全員で行う必要があります。
まず、戸籍や附票を取得して調査したCさんの住所宛に連絡をしていただきました。
ところが、Bさんとの長年の確執からか「協力したくない」の一点張り。母親であるAさんからの連絡でも同様とのことでした。
Cさんが応じてくれない限り、遺産分割協議を進めることができず、預金を下ろすことができません。
それはつまり、Aさんの当面の生活費が確保できないということでもありました。

②相続財産以外での生活費確保

しかも、しばらくは葬儀代や未払いの病院代などの臨時出費がかさむ時期です。
そんな中、実は、Cさんの居所を調査と同時にしていたことがありました。相続財産以外の資金についての請求です。
生命保険は相続財産に当たらないので、遺産分割協議をせずともAさんが受け取ることができます。
幸い、Xさんは生命保険をかけていたため、まず保険の請求を着手していただきました。
また、同様の遺族年金も早急に請求することにしました。
一方で、相変わらずCさんの態度は頑なです。
そうこうしている内、死亡保険金が支払われ、その後、無事に遺族年金も受け取ったAさん。
ようやくBさんも、お母様の生活費の心配を取り除くことができました。

その後、金銭的に安心のできたAさんとBさんは、根気よくCさんのもとに足を運びました。
そして、ずっとCさんの心配をしていたXさんの思いを何度も伝えました。これからは、家族としてもう一度やり直したいと話しをし続けました。
その甲斐あって、最終的にCさんは遺産分割協議への協力に応じてくれました。
無事に相続手続が完了し、初盆には皆さんでお参りできたということでした。

遺産分割協議に際し、長年の確執から和解し合った兄弟と、ほっとする母親。

◆参考◆

●遺産分割協議に関わる民法(相続法)の改正

遺産分割協議終了前の、共同相続人の一部からなされる預貯金の払戻請求については下記の通りとされていました。
「預貯金も遺産分割の対象とされ、遺産分割協議が終了しなければ一部の相続人が預貯金の払戻を受けることができない」(2016年12月19日の最高裁判所大法廷決定)

しかし、それでは今回のケースのように当面の生活費など有事における相続人の資金不足が深刻化してしまいます。
こうした不都合を回避すべく、早急な法整備が待たれていたのです。
そこで、ついに今般の民法(相続法)改正で預貯金の払戻制度が創設されました。
民法第909条の2が盛り込まれ、各相続人は遺産分割前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。(2019年7月1日施行)

●その他の改正

このほかにも家事事件手続法を改正して、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断により預貯金の仮払いを得る方策も設けられました。
家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しが受けられる金額には上記のとおり限度額が定められていることから、あくまでも当面の資金需要に対応するためということで、大口の資金需要がある場合については、家庭裁判所の判断を仰ぐということになると考えられます。

参考サイト:全国銀行協会

事例 97遺言書の必要性を痛感した夫の相続

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Aさん

遺言書作成を拒否し続けた夫が、ついに遺言書作成しないまま他界しました。どんな手続きから始めればいいか途方に暮れています・・・。

遺言書があれば遺産分割協議もスムーズに進みます

ご主人であるXさんの相続手続のご相談に来られたAさん。
ご夫婦にはお子さんが一人いらっしゃいましたが、結婚も子を持つこともなく、既に病気で亡くなっています。その後、Xさんが病気で入退院を繰り返すようになった際、Aさんはお子さんを病気で突然に亡くされたご経験から、Xさんに遺言を書いてほしいと何度もお願いしたそうですが、「遺言なんて縁起でもない!俺に早く死んでほしいのか!」と言われてしまい、それ以上話が出来ないまま、Xさんが亡くなられてしまったとのことでした。

Xさんの相続財産は、自宅不動産が主で、預貯金はあまり残されていませんでした。
相続人全員で遺産分割をしなければならない、と理解しつつも、Aさんは「自宅は大切な場所だし、今後の生活もある。売却をせず、自分名義にして守っていきたい」とお考えでした。手元に生活の資金も残すとなると、Aさんが法定相続分以上を相続する、という内容の遺産分割協議が必要になります。
Xさんのご両親は既に亡くなられており、相続人はAさんの他に、Xさんの兄弟姉妹5人ということでした。依頼を受けて戸籍を取寄せて確認すると、実は母親の違う姉(Yさん)がいたのですが、Yさんも既に亡くなっており、そのお子さん3人がXさんの相続人となることが判明。
Aさんは、相続人の多さに大変心配していらっしゃいました。

それでもなんとか皆様と連絡をとり、「ご自宅はAさんに」ということで協議がまとまりました。
ところが、分割協議書を作成し、皆様から押印をいただく段階になって、なかなか押印に応じてくれない相続人が一人…。
数か月が経過し、このままでは家庭裁判所に調停申立てをしなくては、と諦めかけていたところ、やっと押印に応じてくれることとなりました。
ほっとしたのも束の間、手続が進まないでいた間にXさんの弟のZさんが亡くなってしまい、Zさんの相続人3人も数次相続人として、押印が必要となりました。すっかり憔悴しきったAさんを励ましながら、最終的には、なんとかご自宅をAさん名義に変えることができました。
「主人が遺言書を書いてくれていたらこんなに大変な思いをしなくてよかったのに。」
というAさんの言葉が印象に残っています。

◆参考◆

●遺言書の必要性
お子様がいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合で、ご両親や直系尊属(第二順位の相続人)が既に亡くなっていると、相続人は、配偶者と故人の兄弟姉妹となります。さらに、その兄弟姉妹も亡くなっていると、その甥姪が第三順位の相続人となります。
遺言がなければ自宅不動産の名義変更にも、相続人全員による遺産分割協議が必要となりますが、分割内容が合意に至らない、押印に応じてくれない、相続人自体の所在が分からない等、多々リスクがあり、難航することも少なくありません。お子様がいらっしゃらない方には、遺言書の作成は検討に値することだと思います。

●民法(相続法)の大幅改正
民法のうち相続法の分野について大幅な改正が行われて久しいですが、その中で、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策として、「配偶者居住権」という権利が創設されたことは記憶にも新しいでしょう。
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利です。遺産分割における選択肢として、また被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
今回のAさんのように、配偶者が自宅不動産を取得することに相続人全員の合意が得られればいいのですが、預貯金を含めた金額面での合意が難しい場合に、配偶者居住権という権利で評価し遺産分割を行うという選択肢が増えることとなります。この配偶者の居住の権利については、令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められています。

事例 86異母兄弟との遺産分割協議

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Bさん

父が亡くなりました。相続人は自分と母親ですが、父は再婚で、前妻との間にも子供がいるようです。
どこに住んでいるかもわかりませんし、できれば連絡も取りたくありません。財産を渡すなんて以ての外です。

相続手続には、必ず相続人全員の協力が必要となります。

お父様が亡くなられたとのことで、息子であるBさんがご相談にいらっしゃいました。父XさんはBさんの母親であるAさんとは再婚で、前妻との間にも子供がいるらしいとのことでしたが、定かではなく、どこに住んでいるかも分かりません。
そんな状況で、相続手続をどのように始めればいいか教えてほしい、ということでした。

もし、前妻との間に子供がいれば、その人もXさんの相続人ということになります。相続手続には、相続人全員の協力が必要となる旨を説明し、戸籍と附票を取寄せ、相続人の確定を行いました。結果、前妻との間には、Bさんのお兄さんにあたるCさんという一人息子が、北海道にいることが判明しました。

次に、どのように連絡をとるべきか検討しました。Cさんとは全く面識のないBさんとAさんは、前妻とその子供に対して悪いイメージしか抱けないご様子で、出来れば自分たちは直接連絡を取りたくないとおっしゃいます。
しかし、遺産分割協議は、相続人間で話し合う必要があることをご理解いただき、まずは、Bさんから附票の住所にお手紙を出していただくことになりました。

後日、Cさんからお返事があり、遺産分割協議を重ねた結果、自宅の不動産などの遺産をBさんとAさんが取得することにCさんが同意されたため、遺産分割協議書を作成。
やり取りを重ねていく中で、Bさんには、自分の兄弟に会っておきたいという気持ちが強くなっていきました。そこで、直接Cさんに会って、遺産分割協議書へ署名・捺印、印鑑証明書の受け取ろうと、北海道へ出向くことにしたのです。

北海道から帰ってきたBさんは、大変すっきりした表情でいらっしゃいました。
Cさんは、父は自分が幼少時に亡くなったと聞かされていたらしく、生きていたことに驚き、わざわざ海を超えてBさんが北海道まで来てくれたことに恐縮し、道内の観光案内や、帰り際にお土産と往復の旅費まで渡してくれたそうです。
Bさんは、「父にそっくりだったCさんの横顔が忘れられない、本当に会いに行ってよかった」と何度も話してくださいました。
北海道に行く前、Bさんは「現在の遺産は離婚後に形成した財産。本当はびた一文も渡したくない」と話されていましたが、最終的には、直接会ったことでわだかまりがなくなったようでした。

会ったことのない相続人の間で協議をしなければならないケースは少なくありません。
相手の状況が全く分からない場合、どのような手段で連絡を取り合うのがよいか、大変難しいところです。実際にお会いいただくのが一番の近道かもしれません。

◆参考◆

●遺産分割の法定相続分
被相続人の子は第一順位として相続人となります。子には実子、養子、嫡出子、非嫡出子とありますが、いずれも子として相続人であり、法定相続分も同じです。前妻の子は後妻の子と法定相続分に差異はありません。相続財産が離婚後に形成されたものであったとしても、前妻の子の同意なくては、遺産分割をすることはできません。
このように、遺産分割には相続人全員の合意が必要となりますが、合意さえあれば法定相続分にとらわれず、持分を自由に決めることができます。全員が合意すれば、一人の相続人に全財産を取得し、残りの相続人は何も取得しないということも可能となります。

●疎遠な相続人がいる場合
行き来のない相続人がいる場合、戸籍の附票を取ることで住所は確認できますので、まずはその住所宛に手紙を出して連絡をとります。電話番号やメールアドレスは分からない為、返信が来るまで何度も手紙を出してみたり、実際に訪問してみたりと根気強く対応していくことが必要となる場合も生じます。
手紙を出しても宛先不明で戻ってくる場合等でも、所在不明として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てて、相続手続を進めることは可能です。

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