Aさんは、家庭裁判所の調停委員です。
相談に来られた時は、既にご自分で集めた亡きお父様の戸籍と、ご自分で作成した財産目録をファイルにしてお持ちになりました。
そして私に、その戸籍や財産目録を見せてくださいました。その整理されたファイルからも、さすが調停委員と思わせるようなAさんの几帳面な性格が垣間見えました。
一見、私共がお手伝いしなくても、ご自分で手続きができるのではないかと思いましたが、Aさんは手続きに行き詰まり困り果てて当社にご相談に来られたというのです。
お話を聞いてみると、亡くなられたお父様のTさんは、1922年(大正11年)3月7日に韓国人の両親の元に生まれました。その後も韓国で暮らしていましたが、1957年(昭和32年)に日本に帰化していました。
Aさんは、Tさんが韓国で暮らしていた頃の住所や地名を記載したメモを見ながら、「帰化後の戸籍は全て集めることができたが、帰化前の韓国戸籍をどうやって集めたらよいかわからない。」と途方に暮れた様子でした。
私は早速、韓国戸籍に精通している行政書士に問い合わせ、すぐさまAさんに、収集方法、収集期間、及びそれにかかる費用のご説明をしたところ、ご依頼を受けることになりました。
被相続人が祖国解放※(1945年8月15日)前に生れている人は、被相続人の戸籍が韓国の本籍地の役場にある可能性が高いのです。
なぜなら、韓国で生まれている場合には当然戸籍にその出生の事実が記録されていますし、日本で生まれていても韓国の役所にその事実が通知され記載されているからです。
一方、被相続人が祖国解放後に生れている人で朝鮮表示※の場合には、韓国の本籍地に戸籍が無い可能性が高いのです。
(参照 在日コリアンくらしの法律Q&A 在日本朝鮮人人権協会 日本加除出版株式会社)
※祖国解放:第二次世界大戦で日本が敗戦したことにより朝鮮半島は解放された。
※朝鮮表示:1947年に制定されたポツダム命令の一つである外国人登録令が施行されたことにより、日本に住んでいながら韓国戸籍に記載されている人は、日本国籍を持ちながら国籍等の欄に出身地である「朝鮮」という記載がなされた。
ご相談者のお父様Tさんは、祖国解放前に生れているため、韓国の本籍地の役場に問い合わせることにしました。以下の文は戸籍の収集を依頼した行政書士からの報告です。
「韓国の本籍地の役場への問い合わせにあたり、まずは法務省の入国管理局から外国人登録原票の写しの交付を受け、Tさんは1957年(昭和32年)11月16日に帰化していることが確認されました。その書類を元に、韓国領事館を通じ韓国戸籍の請求をしたところ、戸籍(除籍謄本)及び家族関係登録簿は本国に存在しないことを証明致します。と記載した事実証明書が韓国領事館から送られてきました。何故、韓国戸籍が存在しないのかというと、当時Tさんが住んでいた地名が市町村合併などで現在は存在せず、また管轄の役場も消滅してしまっているからです。消滅の原因は定かではないですが、朝鮮戦争で焼失した可能性も大きいです。」
今回は、韓国戸籍の収集ができず、戸籍の繋がりが途切れてしまいました。このような場合でも、法定相続人全員の印鑑証明書を添付した「他に相続人がいないことの申述書」を添付することにより、手続きを終える事がでました。
このことをAさんにご報告したところ、大変喜ばれ感謝してくださいました。