※本文中のお名前は全て架空のものです
岡田伸子さん(63)は、先日亡くなった伸子さんの母、伊藤ヨシノ(95)さんの相続のことで相談に来ました。
ヨシノさんは7年前から認知症を患っており、岡田夫妻はヨシノさんの在宅介護に尽くされていたということです。
岡田夫妻は、病院のポスターなどで後見制度の存在はなんとなく知っていましたが、「難しいことは苦手」と申立てをせずにお世話をしていたとのことです。
以前、「家族が認知症になり、家庭裁判所で手続きをしないと預金が下ろせなくなった」という近所の方の体験談を伝え聞いて以来、伸子さんはヨシノさんの約1,000万円の預金全額を、数年間で伸子さん名義の口座に移し替えたそうです。
しかし、移し替えた伸子さんの口座は、伸子さんの自己資金とヨシノさんの資金の区別のつかないものでした。
不正にお金を使ったことはなかったそうですが、ヨシノさんの生活費などで預り金は死亡日時点で600万円程度にまで減っていたとのことです。
しかし、「この600万円程度」というのもはっきりとしない様子でした。
このような経緯で、亡くなる直前から相続のことは心配されていたそうですが、やはり通夜の席で問題がおこりました。
「おばあさんの口座を見せて欲しい」
「その残高によっては、遺産分割を考えさせてもらいたい」
と同じく相続人である、伊藤達也さん(伸子さんの亡き兄の長男)に詰め寄られたのです。
(ちなみに、ヨシノさんの相続人は伸子さんと達也さんのお二人です)
元々あまり良好な関係ではありませんでしたが、この一言で両者の溝は決定的なものになりました。
ヨシノさんは、預金の他に2000万円の評価がつく土地を所有していました。
伸子さんは、達也さんに対して、「生前ロクにヨシノさんの面倒を見なかったのに・・・」との悔しい思いもあったようですが、「過去のお金の出入りを達也さんに見られるくらいなら、土地の権利を放棄する」と、自ら不公平な遺産分割案を提示されました。
その内容は「土地は達也さんに相続してもらって構わないから、預金はこのまま残金を相続させて欲しい。」という内容のものでした。
もちろんセンターとしては、入出金履歴を出して、自己資産との照合・再精査も提案しましたが、伸子さんは「そこまでしたくはない」ということでした。
達也さんの希望も「土地の相続」であったことと、預金の総額が多くても数百万程度であったことを達也さんが事前に把握していた事が幸いし、お二人の遺産分割は合意に達しました。
ヨシノさんの生前に、伸子さんが後見人として、きちんと被後見人の資産と自己資産とを区別して管理していれば・・・と悔やまれます。