事例 122ネット証券の注意点と特徴

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Aさん

株がいっぱいあって、何が何だか分からなくて・・・困っています。

ネット証券の特徴と注意点についても、しっかりサポートいたします。

ネット証券の特徴として、相続人が管理口座の存在に気付きづらい、という点があげられます。

今回、ご主人Xさんを亡くされたAさんからご相談をいただきました。
早速ご自宅にお伺いすると、様々な銘柄の株式の配当金計算書が山のように積んでありました。
ちょうど中間配当が行われる時期だったのです。
Xさんは財産、特に金融資産についてすべてご自身で管理していらっしゃったようで、
そのため、Aさんはもちろん、同居の長男Bさんも同様に資産状況は全くわからないとのことでした。

①所有している株の整理

まず、どれだけの株をどれくらい所有しているかを、明確にしなくてはなりません。
証券会社からの郵便物がないか探していると、
配当金計算書の封筒の山からN証券とM証券の封筒が。
さらに、封筒の中には、定期的に送付される取引残高報告書が入っていました。

②報告書と計算書で銘柄を突合

次に、その取引残高報告書の銘柄と配当金計算書の銘柄を照合していきます。
その結果、配当金計算書はあっても、取引残高報告書に記載のない銘柄が数社ありました。
念のため、N・M両証券会社に照会をかけましたが、それぞれでの取引はありません。

③ネット証券の可能性も視野に

上場会社の株式は平成21年の電子化以前に証券会社に預託していない株式は、
株主名簿管理人(信託銀行証券代行部)の特別口座で管理されています。
念のため、そこにも照会を行った結果、
最終的に、保有株式数と特別口座の株式数が一致しない株式が2銘柄残りました。
いったいどの口座で管理されているのでしょうか?
ここで、ネット証券の特徴を思い出してみてください。

ともかく、最後の手段として、「証券保管振替機構(ほふり)」に情報開示を請求しました。
実は、上場会社の株式は、証券会社や信託銀行の口座を通じて「ほふり」が保管しています。
つまり、そこに照会すれば、どこにその株主の口座があるかが判明します。

さて、ひと月ほどして回答がきました。
すると、Aさんは既出の2社以外にR証券に口座があることが分かりました。
R証券はいわゆるネット証券でした。

ネット証券の特徴として、取引残高報告書が郵送で送付されないため、
手元に手がかりがなく、相続人は口座の存在を知ることが難しいというパターンそのものでした。
その後、R証券に照会をかけ、ようやく残りの2銘柄を確認しました。
照会を何度も繰り返し、時間を要しましたが、山と積まれた株式の全貌が把握できました。
ネット証券をはじめとしたネットでの取引は、相続人が財産を把握できない恐れがあります。
エンディングノート等で財産を整理しておくなどの対策があればと思います。

◇ネット証券の特徴と落とし穴◇

ネット証券は、取引残高報告書が郵送で送付されてくることがないため、
残された相続人が管理口座の存在に気付きづらい、という落とし穴があるのです。

手元に手がかりのないネット証券の存在を探す男性のイラスト

◆参考◆ネット証券の特徴を踏まえた対策・注意点

●株式の電子化

先にも述べたように、平成21年以降、「社債、株式等の振替に関する法律」により、
上場会社の株式等に係る株券はすべてが廃止され、証券保管振替機構(ほふり)及び、
証券会社等の金融機関にて開設された証券会社の口座で、電子的に管理されています。
よって、その相続手続も、預託している証券会社の被相続人の口座から
相続人の口座にその銘柄を移管するという形で行う為、
株主となる相続人はその証券会社に口座を開設する必要があります。

●ネット証券の注意点

ネット証券の特徴として、ネット銀行等で取引がある場合、
そもそも、相続人はパソコンにアクセスできないと
財産の全貌の把握が困難という点もあげられます。
また、今回のケースのように、証券保管振替機構に開示請求するという手もありますが、
それでは、時間と費用を要します。
そうした背景から、終活の一環として、エンディングノート等を活用し、
ネット関係も含めた財産整理をしておくことが望まれます。
とはいっても、どこのネット証券にどのような銘柄を預託しているか程度の記載にとどめ、
銀行口座の暗証番号などと同じく、IDやパスワードまで詳細に記載することは控えた方がいいでしょう。

【社債、株式等の振替に関する法律】に関しては、こちらの財務省のページもご参照ください

事例 120様々な事情がある相続人の手続き

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Aさん

夫の相続手続をしたいのですが、子供たちに色々な事情があり、悩んでいます。

相続人に様々なご事情がある場合も、しっかりとサポートいたします。

「様々な事情がある相続人ばかりで、夫の相続手続が難航しそうで悩んでいます。」


Aさんから、ご主人Xさんの相続でご相談をいただきました。
相続人は配偶者のAさんと長男、長女、次女の3人の子です。
しかし、相続人であるお子様たちに様々な事情があるとのことでした。
そのため、相続手続をどのように進めたらいいか、また相続税はどのくらいの負担となるのか、
そういった点で、悩んでおられました。

まず、それぞれの事情をお聞きすることに。
長男Bさんはアメリカに居住しており、しばらく日本に帰って来られないという事情。
長女Cさんは、結婚後に病に倒れ、障害をお持ちで寝たきりの状態という事情。
唯一、次女Dさんが、Xさんの近くで暮らし高齢のAさんを支えているとのこと。
相続財産は預金のみですが、相続税の基礎控除額を超えるため、申告が必要でした。

一般的に、遺言書がない場合には「遺産分割協議書」を作成し、各相続人が実印を押印します。
ところが、今回、相続人である長男と長女にそれぞれの事情があったため、
この部分について自分達で上手くできるのか、というお悩みの様子でした。

①長男への対応

そもそも、相続人が海外に居住されている場合、実印及び印鑑証明書が用意できません。
その場合は、現地の日本領事館での「署名(及び拇印)証明」で代用することができます。
領事の面前で、遺産分割協議書に本人が署名したことを証明してもらうのです。
アメリカにお住いのBさんへ、Dさんから連絡をしていただき、
遺産分割協議書をアメリカに郵送して、無事に署名証明を受けていただきました。

②長女への対応

一方、障害をお持ちのCさんについては、寝たきりとはいえ、意思疎通は可能とのこと。
さらに、電話でお話もできるようでしたので、Dさん経由でCさんのご主人にご協力を依頼。
無事、遺産分割協議書への署名押印や印鑑証明書をご準備いただくことができました。
なお、相続人が障害をお持ちで、今回のケースのような意思疎通が不可能な場合は、
後見制度を利用しなければならない場合もあります。

かくして、遺産分割の内容は、Aさんが2分の1、子三人は残る2分の1を3等分するというものになりました。
第一に、配偶者のAさんは配偶者控除の適用により相続税の負担はありません。
そのかわり、子3人は負担を負います。
しかし、Cさんは障害者であるということで、障害者控除の適用を受け、税の負担を免れました。
さらに、Cさんが受ける障害者控除の額が、Cさんが負担する予定の相続税額よりも多い為、
その超えた部分は兄弟姉妹であるBさんやDさんの相続税額から差し引かれることに。
結果的に、Bさん、Dさんがその恩恵を受けることとなりました。
協力をしていただいたおかげでスムーズに相続手続きが進行し、
また、結果的に誰も相続税を負担することなく完了し、
様々な事情がある相続人ばかりのお手続きが無事に済み、Aさんの悩みも無事解消されました。

◆参考◆相続税の障害者控除

具体的な控除額の例・・・

通常、相続税の障害者控除は、相続税の申告に際し、
相続人が85歳未満の障害者のときは、相続税の額から一定の金額が差し引かれます。
その額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年(1年未満は切り上げ)につき10万円で計算した額
(特別障害者の場合は1年につき20万円)です。
例えば、相続開始時点で52歳4か月の場合、85歳-52歳4か月=32歳8か月、
10万円×33年(端数切上)=330万円が相続税額から差し引かれることとなります。

他の相続人も軽減される可能性・・・

この障害者控除額が、その障害者本人の相続税額よりも大きい為、控除額の全額が引ききれない場合は、
その引ききれない金額を、その障害者の扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹のほか、
3親等内の親族の内一定の者)の相続税額から差し引くことになります。
つまり、障害者でない方も、税の負担が軽減される場合があるということです。
なお、障害者控除は、相続や遺贈で財産を取得することが要件の一つになっていますので、
障害者控除の適用を受けるには、その障害者は少額でも財産を取得しておく必要があります。

国税庁のイラスト(様々な事情がある相続手続・障害者控除の関連)

※アドバイス※
上記のケースでは他の相続人にも負担軽減の恩恵がありましたが、あくまでもケースバイケースとなります。
様々な事情がある場合、まずはお気軽に当センターへご相談ください。

  

事例 113所在不明の相続人を探すには?

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Aさん

所在不明の相続人がいるので、妻の相続手続きがちゃんとできるか心配です。

相続人の確定作業で、現住所を調べることから始めます。

「所在不明の相続人がいます。どうしたらいいでしょうか?」
Aさんから、奥様のご相続についてのご相談でした。
奥様のXさんとAさんご夫婦にお子様はいません。
Xさんの兄弟姉妹はBさん、Cさん、Dさんの3人。
その内、既に亡くなっているDさんにはEさんという子どもがいるそうで、
亡くなったXさんにとっては姪にあたります。
こうして、相続人はAさん、Xさんのご兄弟のBさんCさんと姪Eさんと判明しました。

Xさんは遺言書を遺されていませんでした。
そのため、共有だったご自宅のマンションをAさん名義に変更するには、
相続人全員による遺産分割協議を行う必要がありました。
しかし、Eさんの所在が分からないというのです。

所在不明の相続人について戸籍の附票を取得

「Eさんは結婚しているはずです」と、BさんやCさんが仰いました。
ところが、ご主人の実家でご両親と同居していたある日、家を飛び出してしまったというのです。
そして、離婚もせず消息がわからなくなって10年近くなるとのこと。
まずは、戸籍の附票を取り寄せました。大概はこれで現住所が判明します。
しかし、家を飛び出したきり消息不明、ということでしたので、
結局のところ、住所はご主人の実家のまま、Eさんの所在は何もわからずじまいでした。

どうしても所在が突き止められない場合は

では、調査しても所在不明であった場合はどうすればいいのでしょうか。
一般的には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることにより、相続手続を進めることができます。
そこで、他に策がないAさんも、裁判所に申し立てを行うこととなりました。
しばらくすると、家庭裁判所からAさんに「Eさんの所在が分かった」と連絡が来ました。
どうやら、裁判所でも所在不明な方の調査をするようです。
その際には、運転免許の更新や社会保険等の記録が用いられるため、戸籍の附票よりも多くの情報が得られるようでした。
Aさんは、ようやくEさんとお会いすることができました。

Eさんは、家を飛び出したことを反省していました。
しかし、今後もご主人達に所在を知られたくないご様子でした。
ただ、Xさんの相続には協力してくれるということでした。
実際にお会いしたEさんが、精神的にも経済的にも大変苦労していると感じたAさん。
マンションの持分をすべてAさん名義にする遺産分割協議に協力してもらう代わりに、
代償金として持分に相当する金銭をお渡しすることにしました。
そうして、遺産分割協議が成立し、無事に手続きが完了しました。

奥さんの相続手続で、所在不明の相続人(姪)がいたとして、困っている相続人Aさん。

◆参考◆

●戸籍の「附票」で所在不明かを確認

 所在不明の相続人がいる場合、まず取得すべきなのは戸籍「附票」です。
 相続の手続に際し遺言書がなく、複数の相続人がいるときは、
 相続人全員による遺産分割協議が必要となります。
 万が一、行方がわからない相続人がいる場合でも、
 戸籍を取得する際に「附票」を取得することで住所を把握できます。
 戸籍の附票とは、本籍地の市町村が管理する、住民票記載の住所地の移転の履歴の記録です。
 附票は戸籍と一体化しており、戸籍の移転が行われていなければ、
 一つの戸籍の附票に全ての住所履歴が記録されます。
 しかし、何らかの事情により住民票の移転を行っていない場合は、
 それ以上の情報が分からず、所在不明の相続人として連絡を取ることができません。

●不在者財産管理人の選任

 しかし、その場合でも、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に、
 不在者財産管理人の選任を申し立てることで、相続手続きを進めることは可能です。
 申立てには不在の事実を証する資料の添付が求められます。
 裁判所により選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存する権限しか有していないので、
 家庭裁判所に権限外行為の許可を得た上で、管理人が不在者に代わって遺産分割協議を行うことになります。
 この許可を得る際は、一般に、遺産分割協議書の案を添付して申し立てが行われます。
 不在者財産管理人の職務は、不在者が現れたとき、不在者について失踪宣告がされたとき、
 不在者が死亡したことが確認されたとき、不在者の財産がなくなったとき等まで続きます。
 遺産分割協議が終わったら終了、ではありません。
 不在者が現れたときには不在者であった者に、
 不在者について失踪宣告がされたり不在者が死亡していることが判明したときは不在者の相続人に、
 それぞれ財産が引き継がれます。

【不在者財産管理人についてはこちらもご参照ください:裁判所>不在者財産管理人選任ページ

お困りの際は、いつでも当センターにご相談ください。

事例 105相続人以外へ財産を贈与できますか?

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Aさん

叔父の相続財産を、相続人以外の方に受け取ってほしいのです。どうしたらいいでしょうか?

民法改正により、相続人以外の親族へ遺産分配ができるようになりました。

「相続人以外の方に、相続財産を受け取ってもらえますか?」

Aさんが叔父の相続手続きの相談でいらっしゃいました。
叔父のXさんは生涯独身で5人兄弟の末っ子でした。また、既にご兄弟も全員お亡くなりになっているそうです。
そのため、相続人はAさんを含む甥姪7人とのことでした。
そして、Aさんが代表として動くことになったため、相談に見えたということでした。その理由は、一番お若いことと法定相続分が最も多いことだそうです。

お話をするうちに、Aさんが冒頭の質問をされました。
なんでも、相続人以外に、ぜひ財産を受け取ってほしい方がいるそうで…。

①Xさんのごきょうだい

先述の通り、叔父Xさんのごきょうだいは既に他界していますが、少々複雑だったようです。
まず、いわゆる異母兄弟が3人(長女Pさん、長男Qさん、次男Yさん)。そして、両親が同じZさん(Aさんのお母様)でした。ただ、母親が違うとはいえ、長女Pさんは弟Xさんを可愛がっていたそうです。
それは、Pさんの嫁ぎ先の北海道にXさんも居を移したことからも明らかでした。そして、Pさん亡き後も、その長男Rさん家族がXさんの面倒をみていたというのです。

②真の貢献者Bさん

Aさんがお葬式のために北海道に行くと、Rさんは10年前既に他界していました。
さらに、奥さんのBさんはご主人が亡き後、義理の母であるPさんを看取ったそうです。
その後、夫の叔父にあたる独居老人であったXさんのお世話を、子供たちと一緒にしてくれていたそうです。
それほど尽くしてくれたにもかかわらず、相続財産を受け取ることはできません。BさんもRさんのお子様もXさんの相続人とはならないからです。それは、RさんがXさんより先に死亡したためです。Aさんはそのときに初めて、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪一代限り、と知りました。

「なんとしてもBさんご家族に相続財産を受け取ってほしい。真の貢献者は彼女です。財産を受け取る権利があります!」

そう思ったAさんは、東奔西走の末、当センターに辿り着いたということでした。

まず、Aさんは税理士に、Bさんに贈与税の負担のかからない方法を確認しました。そして、Xさんの相続人(Aさんの従兄弟たち)一人一人に掛け合いました。最後に、Cさんに一役買っていただくことで分割協議がまとまりました。相続人がそれぞれ相続分から出し合い、Cさんの相続分に500万円上乗せするという内容です。
その後、Cさんから1年に100万円ずつ、計5年間、Bさんに贈与してもらうことになりました。
亡Rさんの妹Cさんは、北海道にお住まいでBさんと親交がある方だったのです。

相続人以外の貢献者は法定相続人の配偶者とその子供達

◆参考◆

●相続人以外の貢献者

「なによりその努力を皆さんが認めてくださったことが嬉しい」
何の見返りも期待せず介護をしていたBさん親子も、大変喜ばれました。
故人のお世話をしてくれていた人にこそ遺産を渡したいというAさんの優しい熱意。それが、他の相続人の心を動かした事案でした。

●「特別寄与料」の請求

民法改正により、相続人の親族(相続人以外の者)の貢献を考慮するための方策の条文が追加されました。
(2019年7月1日施行)
これまで、多大な貢献をした場合でも、相続人以外の者は遺産の分配を受けられませんでした。
それでは実質的公平に反するため、今般の民法相続法の改正がなされました。
相続人以外の者であっても、一定の貢献をした場合には相続人に対して「特別寄与料」を請求できることとなりました。(ただし相続人の親族に限る)

参考サイト:法務省(相続法の改正)

●今回のケース

今回は贈与の形で、本来は遺産を受け取ることのできないBさんへの優しさが実ったケースでした。
今後は、この法律改正が施行されたため、次のような場合の請求が可能となります。

 例)長男の死亡後、その妻が義父の介護をしており、その義父が亡くなった場合。

こうした場合に、長男の兄弟姉妹に対して、妻が直接金銭の請求をすることができるようになりました。
(相続人以外の被相続人の親族が無償で療養介護等を行っていた場合に限る)

事例 86異母兄弟との遺産分割協議

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Bさん

父が亡くなりました。相続人は自分と母親ですが、父は再婚で、前妻との間にも子供がいるようです。
どこに住んでいるかもわかりませんし、できれば連絡も取りたくありません。財産を渡すなんて以ての外です。

相続手続には、必ず相続人全員の協力が必要となります。

お父様が亡くなられたとのことで、息子であるBさんがご相談にいらっしゃいました。父XさんはBさんの母親であるAさんとは再婚で、前妻との間にも子供がいるらしいとのことでしたが、定かではなく、どこに住んでいるかも分かりません。
そんな状況で、相続手続をどのように始めればいいか教えてほしい、ということでした。

もし、前妻との間に子供がいれば、その人もXさんの相続人ということになります。相続手続には、相続人全員の協力が必要となる旨を説明し、戸籍と附票を取寄せ、相続人の確定を行いました。結果、前妻との間には、Bさんのお兄さんにあたるCさんという一人息子が、北海道にいることが判明しました。

次に、どのように連絡をとるべきか検討しました。Cさんとは全く面識のないBさんとAさんは、前妻とその子供に対して悪いイメージしか抱けないご様子で、出来れば自分たちは直接連絡を取りたくないとおっしゃいます。
しかし、遺産分割協議は、相続人間で話し合う必要があることをご理解いただき、まずは、Bさんから附票の住所にお手紙を出していただくことになりました。

後日、Cさんからお返事があり、遺産分割協議を重ねた結果、自宅の不動産などの遺産をBさんとAさんが取得することにCさんが同意されたため、遺産分割協議書を作成。
やり取りを重ねていく中で、Bさんには、自分の兄弟に会っておきたいという気持ちが強くなっていきました。そこで、直接Cさんに会って、遺産分割協議書へ署名・捺印、印鑑証明書の受け取ろうと、北海道へ出向くことにしたのです。

北海道から帰ってきたBさんは、大変すっきりした表情でいらっしゃいました。
Cさんは、父は自分が幼少時に亡くなったと聞かされていたらしく、生きていたことに驚き、わざわざ海を超えてBさんが北海道まで来てくれたことに恐縮し、道内の観光案内や、帰り際にお土産と往復の旅費まで渡してくれたそうです。
Bさんは、「父にそっくりだったCさんの横顔が忘れられない、本当に会いに行ってよかった」と何度も話してくださいました。
北海道に行く前、Bさんは「現在の遺産は離婚後に形成した財産。本当はびた一文も渡したくない」と話されていましたが、最終的には、直接会ったことでわだかまりがなくなったようでした。

会ったことのない相続人の間で協議をしなければならないケースは少なくありません。
相手の状況が全く分からない場合、どのような手段で連絡を取り合うのがよいか、大変難しいところです。実際にお会いいただくのが一番の近道かもしれません。

◆参考◆

●遺産分割の法定相続分
被相続人の子は第一順位として相続人となります。子には実子、養子、嫡出子、非嫡出子とありますが、いずれも子として相続人であり、法定相続分も同じです。前妻の子は後妻の子と法定相続分に差異はありません。相続財産が離婚後に形成されたものであったとしても、前妻の子の同意なくては、遺産分割をすることはできません。
このように、遺産分割には相続人全員の合意が必要となりますが、合意さえあれば法定相続分にとらわれず、持分を自由に決めることができます。全員が合意すれば、一人の相続人に全財産を取得し、残りの相続人は何も取得しないということも可能となります。

●疎遠な相続人がいる場合
行き来のない相続人がいる場合、戸籍の附票を取ることで住所は確認できますので、まずはその住所宛に手紙を出して連絡をとります。電話番号やメールアドレスは分からない為、返信が来るまで何度も手紙を出してみたり、実際に訪問してみたりと根気強く対応していくことが必要となる場合も生じます。
手紙を出しても宛先不明で戻ってくる場合等でも、所在不明として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てて、相続手続を進めることは可能です。

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