Aさん
所在不明の相続人がいるので、妻の相続手続きがちゃんとできるか心配です。
相続人の確定作業で、現住所を調べることから始めます。
「所在不明の相続人がいます。どうしたらいいでしょうか?」
Aさんから、奥様のご相続についてのご相談でした。
奥様のXさんとAさんご夫婦にお子様はいません。
Xさんの兄弟姉妹はBさん、Cさん、Dさんの3人。
その内、既に亡くなっているDさんにはEさんという子どもがいるそうで、
亡くなったXさんにとっては姪にあたります。
こうして、相続人はAさん、Xさんのご兄弟のBさんCさんと姪Eさんと判明しました。
Xさんは遺言書を遺されていませんでした。
そのため、共有だったご自宅のマンションをAさん名義に変更するには、
相続人全員による遺産分割協議を行う必要がありました。
しかし、Eさんの所在が分からないというのです。
所在不明の相続人について戸籍の附票を取得
「Eさんは結婚しているはずです」と、BさんやCさんが仰いました。
ところが、ご主人の実家でご両親と同居していたある日、家を飛び出してしまったというのです。
そして、離婚もせず消息がわからなくなって10年近くなるとのこと。
まずは、戸籍の附票を取り寄せました。大概はこれで現住所が判明します。
しかし、家を飛び出したきり消息不明、ということでしたので、
結局のところ、住所はご主人の実家のまま、Eさんの所在は何もわからずじまいでした。
どうしても所在が突き止められない場合は
では、調査しても所在不明であった場合はどうすればいいのでしょうか。
一般的には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることにより、相続手続を進めることができます。
そこで、他に策がないAさんも、裁判所に申し立てを行うこととなりました。
しばらくすると、家庭裁判所からAさんに「Eさんの所在が分かった」と連絡が来ました。
どうやら、裁判所でも所在不明な方の調査をするようです。
その際には、運転免許の更新や社会保険等の記録が用いられるため、戸籍の附票よりも多くの情報が得られるようでした。
Aさんは、ようやくEさんとお会いすることができました。
Eさんは、家を飛び出したことを反省していました。
しかし、今後もご主人達に所在を知られたくないご様子でした。
ただ、Xさんの相続には協力してくれるということでした。
実際にお会いしたEさんが、精神的にも経済的にも大変苦労していると感じたAさん。
マンションの持分をすべてAさん名義にする遺産分割協議に協力してもらう代わりに、
代償金として持分に相当する金銭をお渡しすることにしました。
そうして、遺産分割協議が成立し、無事に手続きが完了しました。
◆参考◆
●戸籍の「附票」で所在不明かを確認
所在不明の相続人がいる場合、まず取得すべきなのは戸籍「附票」です。
相続の手続に際し遺言書がなく、複数の相続人がいるときは、
相続人全員による遺産分割協議が必要となります。
万が一、行方がわからない相続人がいる場合でも、
戸籍を取得する際に「附票」を取得することで住所を把握できます。
戸籍の附票とは、本籍地の市町村が管理する、住民票記載の住所地の移転の履歴の記録です。
附票は戸籍と一体化しており、戸籍の移転が行われていなければ、
一つの戸籍の附票に全ての住所履歴が記録されます。
しかし、何らかの事情により住民票の移転を行っていない場合は、
それ以上の情報が分からず、所在不明の相続人として連絡を取ることができません。
●不在者財産管理人の選任
しかし、その場合でも、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に、
不在者財産管理人の選任を申し立てることで、相続手続きを進めることは可能です。
申立てには不在の事実を証する資料の添付が求められます。
裁判所により選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存する権限しか有していないので、
家庭裁判所に権限外行為の許可を得た上で、管理人が不在者に代わって遺産分割協議を行うことになります。
この許可を得る際は、一般に、遺産分割協議書の案を添付して申し立てが行われます。
不在者財産管理人の職務は、不在者が現れたとき、不在者について失踪宣告がされたとき、
不在者が死亡したことが確認されたとき、不在者の財産がなくなったとき等まで続きます。
遺産分割協議が終わったら終了、ではありません。
不在者が現れたときには不在者であった者に、
不在者について失踪宣告がされたり不在者が死亡していることが判明したときは不在者の相続人に、
それぞれ財産が引き継がれます。
【不在者財産管理人についてはこちらもご参照ください:裁判所>不在者財産管理人選任ページ】
お困りの際は、いつでも当センターにご相談ください。