事例 117戸籍が物語る戦争

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Aさん

広島の伯母が亡くなり、相続人が遠方に住む自分しかいないようです。どうすればいいですか?

転籍を繰り返された方の戸籍収集は手間がかかります。

「亡くなった叔母の戸籍を取るにはどうしたらいいでしょうか?」

相談者Aさんの伯母Xさんは、広島で亡くなりました。
ところが、相続人は姪であるAさんしかおらず、手続先が遠方なため、手を貸してほしいとのこと。
Xさんの最後の本籍地は、市が発行した火葬埋葬許可証から明らかです。
まずは、そこに記載されていた広島市の区役所へ戸籍の郵送請求を行うべく、
必要書類や定額小為替などを準備して目的地へ向けて発送しました。
しかし、これがこの後続く長い戸籍収集の始まりとなろうとは、想像もしていませんでした。
なぜなら、すべてが郵送でのやりとりであるうえに、Xさんの家族が何度も転籍を繰り返していたからです。

相続人であることを証明するために

さらに、相続人が兄弟姉妹の代襲相続人であるAさんしかいない
ということを証明するためには、気の遠くなるような戸籍収集を必要としました。
そうして、広島県内各市区町村役場への郵送請求を13回、丸2ヶ月の期間をかけて、
ようやくすべての戸籍を揃えることができました。
では、なぜ同じ家族が、広島県内でどうしてこんなにも転籍を繰り返したのか。
住民票と違って、戸籍を移すには相応の理由があったと想像できますが、
一般的に、真意まで理解することはかないません。
そうした中、とある戸籍に胸を締め付けられる思いをしたのです。

戦争こそが、転籍を繰り返した理由

その背景には、戦争があったことが戸籍から読み取れたのです。
というのも、Xさんの配偶者の戸籍には「ニューギニア北方海上ニ於テ戦死」の記載がありました。
これは、Xさんが昭和16年に結婚してわずか2年後、29歳の時です。
その際、どのような思いでこの報せをお聞きになったのでしょうか。
また、Xさんの母の戸籍には「昭和20年8月6日午前9時広島市××町番地不詳ニ於テ死亡」とあり、
それだけでなく、わずか12歳の異父妹(注;母の離婚後、再婚相手との間に産まれた娘)の戸籍には、
「昭和20年8月9日午後6時広島市××町 番地不詳ニ於テ死亡」との記載がありました。
まるで、母親を追うかのようにも見えました。

おそらく、この一家は戦禍を避けるために転籍を繰り返してきたのでしょう。
つまり、戦争によって、何回も家族構成が変わっていたことが、転籍を繰り返す原因だったのです。
ときに、多くの映像や文章よりも、戸籍によって、戦争の悲惨な状況を
リアルに感じ取れるものだと痛感したのでした。

まず、相続手続きを行うには、相続関係を公証する書類として戸籍が必要となります。
しかも、出生までさかのぼる為、多くの戸籍取得が必要となる場合があります。
しかし、こうした戸籍収集のわずらわしさから解放される日も近いようです。

戦争や大きな災害による生死は、戸籍に刻まれ次世代に引き継がれる。
戦争や大きな災害による生死は、戸籍に刻まれ次世代に引き継がれる。

  

  

◆参考◆

●そもそも戸籍とは

戸籍は人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、
日本国民について編製され、日本国籍をも公証する唯一の制度です。
出生、死亡、婚姻などの事実をただ淡々と記録をしているだけの書類ではありますが、
今回の事例のような戦争の記載に触れる折には、
その記録の中の人生が胸に迫ってくることがあります。

●「新戸籍法第120条の2」の施行

新たな戸籍法が、2024年(令和6年)3月1日に施行されることで閣議決定されました。
これにより、本籍地以外の最寄りの市区町村役場の窓口で、
本人や配偶者・親・子などの戸籍謄本等を請求できるようになるということです。
つまり、この制度が始まることによって、遠方に本籍地がある戸籍も、
ご自身がお住いの最寄りの役所で取得することができるようになり、
それにより、相続に必要な戸籍のほとんどを、相続人が容易に集められるようになるのです。

  

  

※ 要注意!! ※

ただし、請求できるのは、「本人」「配偶者」「子・孫などの直系卑属」
「両親・祖父母などの直系尊属」の戸籍謄本だけとされています。
つまり、兄弟姉妹・伯父(叔父)伯母(叔母)・甥姪の戸籍謄本は取得できない場合もあるので
注意が必要です。詳しくは、法務省のホームページをご参照ください。

     

  

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