事例 65安易な手紙から兄弟げんかに

28年前に亡くなった父親Aさん所有の不動産の手続きを、どのようにすすめたら良いかYさんより相談がありました。
Aさんには先妻(Aさんより先に死亡)との間に7人、後妻(Aさんより後に死亡)との間に2人の子供がいて、相続人は合計9人です。
昨年の秋、Aさんが亡くなってから28年経ち、兄弟姉妹の中でも末っ子で年長とは30歳の年の差があるYさんが、不動産の名義変更をしなければとご自身で手紙を作成し、兄弟姉妹へ提案をしました。

きっかけとなったのは、不動産の所在する○○市では、近年、安全に管理されずに放置されている老朽化した空き家等が増加し、倒壊、犯罪及び火災等に対しての相談が増加していることから、「○○市空家等の安全な管理に関する条例」を制定すると発表されたことによります。
現在は、空き家となっている不動産(土地・家屋)をどうにかしなくてはいけないと決心し、不動産を売却した利益や費用など平等に分配・負担しようとの提案でしたが、手紙の書き方により、利益はYさんが独り占め、費用だけを全員で負担する内容との誤解を与えてしまい、Aさんが亡くなってからの28年間のそれぞれ兄弟姉妹間の事情・感情も絡み合い、Yさんは兄弟姉妹から非難を浴びてしまい、話し合う状況ではなくなってしまったのです。

Yさんから依頼を受けた当センターは、行政書士と連携し、第三者の立場から不動産の内容・現在の状況及び今後の手続きについて説明し、遺産分割に対する相続人個々の意思を確認したところ、相続人のうちXさんとYさん2人以外は相続したくないとの回答をいただき、XさんとYさんが相続し、費用も2人が負担する内容の「遺産分割協議証明書」を作成しました。

順調にすすんでいるかと思いきや、相続したくないとしていた相続人のうち甲さんと乙さんの2人から「遺産分割協議証明書」ではなく、「相続放棄書」と「相続分譲渡及び脱退届」が送付されてきました。
内容を確認すると、「相続放棄書」は以前Yさんが各相続人に送付した手紙に添付した書類で、記載内容に不備があり、そのままでは法的効力のあるものではありませんでした。また、「遺産分譲渡及び脱退届」は家庭裁判所で調停になっており、自分はその調停の相続とは無関係になりたいとの意思表示をするための書類で、今回は調停を申立ててはなく、なぜその書類を入手したかはいまだに不明です。
甲さんと乙さんは相続をしたくはないが、「遺産分割協議証明書」による協力をしたくないとのことでした。
解決策として、送付していただいた書類では不備や主旨違いであることを説明し、それぞれの意思を尊重して手続きを行うために「相続分放棄証書」を作成したところ、無事に署名押印していただくことができました。

中途半端な申出により、相続人の気持ちを逆撫ですることはよくあります。
また望む結果は同じであろうと、相続人それぞれの思いに違いはあるものです。
思いを形にするためには、言葉を大切に伝えることも必要です。

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